冬の篠突く雨

小糠雨



来週から転校生が来るからな、という担任の言葉にざわめきたったのは、ほんの一瞬だった。
担任が注釈のように添えたその説明がクラスの浮つきを冷たくさせた。
これから来るであろうその転校生を「一般的な生徒」から遠ざける理由を一番初めに作ったのだ。




洛山高校のバスケ部員、それもレギュラーであるということがどういうことであるかというのは重々に理解している。
ここには全国の成績優秀者やスポーツ優秀者がこぞって入学してきており、関西圏の人だけではなく様々な地方出身の人間で溢れていた。
その中でも、百目木明はさまざまな意味で異彩を放っていたし、それを遠巻きにしか見ることのできない独特の雰囲気が彼女にはあった。あどけない様な、どこにでも居そうなのに黒目がちの世界の全てを映してしまいそうな瞳が綺麗な顔立ちをより、不思議なものに仕上げていた。

積極的にクラスメイトに話しかけるわけではないが、気を遣いつつ彼女もコミニケーションをとろうとしているようだった。けれど休み時間などにふと一人で息を抜くかのように空を見上げるその表情が、儚く何かを抱えていてこの学校という小さなコミニティをまるで捉えていないようだった。
それでも見て見ぬ振りをし続けたのは、己自身、彼女に深入りするほどの勇気や余裕というものがなかったのだろう。


彼女と。いや明と話すようになった高二の春先と、彼女が転校してきたときの高一の冬の日を思い出しながら考えた。


「次、移動よ。行きましょ」
「あ、うん」


視線を放っていた窓からパッ、と私に瞳を移し彼女は咄嗟に笑う。
何を思っているのだろうか。
家庭のことならまだ踏み込むには早計か?など、浅はかな思惑に、少さなからず自分だってあの時の担任と同等に彼女を悲劇へと押し上げようとしているではないか、と、苦笑した。



『お母様を早くに亡くし、お兄さんとお父上と三人で暮らしていたが先日そのお父上も失踪したそうだ。お兄さんが優秀な方でな、京大の研究室に呼ばれてこちらへ来るそうだよ』


マスコミなどで敏感になっているだろうから、皆あまり不躾に質問攻めにしないように


その言葉がなおさらその子を腫れ物に仕立て上げるというのに、と、ぼんやり非難した。


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