四月に入りバスケ部としても以前のキャプテン達を送り出し、先輩としても成長する上に部員を引っ張ってくために気を引き締めようと決意を新たにした。
しかし、その頃になると同時に彼女も環境が一転したようだった。

人事異動。

俺の知らない世界の人の入れ替わりの渦に彼女は巻き込まれたため、自身の心を立て直すのに必死で。
それを見てるしかない俺は背伸びして支えようとするけどうまくいかず、大人の余裕というのだろうか、苦笑をしてかわされてばかり。
携帯を何度も確認したって返事は来てやいないし電話したって「辰也も勉強と部活お疲れ様」と少しも疲れを隠しきれてない声で言われるだけで、何の効果もない。


途方に暮れると共に俺は思いのほか切羽詰まって見えていたらしい。


「氷室、ため息だなんて珍しいアルな」
「劉」


三年になって同じクラスの劉は見かけの冷ややかさよりはるかに人をよく見ていて、思いやりがある。
アツシの傍若無人ぶりに苦笑することは多いものの、あまりネガティヴに思い詰めるのも良くないという自論のため、俺がため息つく事は思えば少ない。

それを理解し見抜いてくれた劉に、口角が上がる。


「よく見てるね」
「誤魔化しはいらないアル。鬱陶しい」
「はは、毒舌だなぁ」
「フン」


そっぽを向いた彼にこれ以上の軽口は悪影響でしかないだろう。
見抜かれただけ落ち込んでいるんだ、たまには、俺だって弱音を吐くさ。


「……彼女とちょっと、ね」
「ああ。結構年上だったアルな?」
「そう。今年の春から社内で環境変わったみたいでさ。思い詰めてるようなんだけど、俺は…なんて言うのかな、何にも出来ないんだよ」
「お前ならメールなり電話なり何なりするだろ」
「うーん、まあ…それなりにしてるんだけどさ。俺が逆に労われたりかわされたりして、あんまり」
「ハア?」


机に腕をいっぱいに伸ばして、思い切り息を吸って、止めて、吐き出す。
両腕を組んでそこに顔を埋める。
チラリと窺えば劉は怪訝そうな表情で俺を見ていた。


「お前、馬鹿アルか?」
「…さっきから言葉の棘がダイレクトにくるよ、劉」
「だからお前らしくないアル。俺の知ってる氷室辰也なら、なりふり構わず会いに行くような、鬱陶しいくらい熱苦しいキザ野郎アル」
「!」


劉に言われて、初めて気がついた。
俺は忙しい彼女に拒絶されたらと。
離れられたらというのが怖くて、この小さな電子機器だけに頼っていた。
そうだ、伝わらないなら、かわされるのなら、顔を見てちゃんとストレートに言えばいいんだ。
逃れられないくらい、まっすぐに。


「劉。ありがとな」
「…男に真正面切ってお礼言われるのも気持ち悪いアルな」
「そう言わずに受けとれよ」


午後の始業を知らせるチャイムが鳴る。
今日は何のことはない、いつも通り授業は六限まであるしその後に部活だってある。でもきっと、部活終わってから向かうくらいが社会人の彼女と会うにはちょうどいいのだろう。
急く気持ちを抑えるのに必死だ。

やっと終わった部活後に、足早に彼女の家の前に向かい、立ちながら電話をかける。
覇気のない声と心のこもって無い、抜け殻のようなありがとうに、苦笑いが出る。
わからないのなら、認められないのなら、俺がそれをすればいい。


俺の知らないとこで、君は頑張ってる。
俺の知らない姿や声で、君は一生懸命打ち込んでいる。
俺の知らないとこで、君はたくさんの気持ちを受け止めたり受け流したり、やり過ごそうとしている。

カツカツと靴音が正面から、電話口からして。
やっと見えた名前は疲れて表情を失ったまま爪先ばかり見てる。


そんな、君の。


家になりたいんだよ。
だから


「おかえり、名前」


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