「七瀬さんて真ちゃんのこと好きなの?」
「え、?」
「だってあんな堅物で部活と勉強しか頭にないようなやつが気にかけるなんてよっぽどだなと思って聞いてみたら、幼馴染っていうじゃん?しかも高校まで一緒だし。それってそーいう意味かなぁって思って」


彼の目は苦手だ。
彼というよりも男の子の視線が苦手なのだけれど、彼には特別何かを探るような鋭さがある。


「そういう意味って言われても…」
「好きなのかなぁーって。もしやすでに恋人同士かと思ったけど緑間の反応見る限り一方通行のようだし?」
「緑間、くんは……好きとかそういうのじゃ、ないよ」


嫌な跳ね方をした心臓がすごく気持ち悪い。
嗚呼、早く帰りたい。



美咲が真太郎と同じクラスになったことで、彼の身辺を知ることになってしまった。美咲は私と真太郎が幼馴染ということも、今はもう関わりがなくなったことも知らない。
しょうがないと言えばそれまでなのだが、決意しただけになんだかなぁと思わずにはいられない。
話を聞くだけで実際に知り合ったわけではないが、入学式の日に玄関前で騒いでいたのはバスケ部の高尾和成くんらしい。真太郎と一緒にいる上にかっこ良くて話しやすいと評判で、私も何回かクラスの女の子からその名前を聞いたことがある。
黒髪の爽やかそうな…でも時々窺う
ような視線を感じて、彼もまたヒトクセある子なんだろう。
だからあまり関わりたくなかったのに、見事に捕まってしまった。


「こんにちは、七瀬さん」


美咲が迎えに来てくれるのを待っていたら、私の席の前に佇んでいた高尾くん。
橙の瞳と真っ黒な瞳孔が鷹みたいに鋭くてちょっと怖い。私この人に名前を教えた覚えないのに…


「…こんにちは」
「そんなに警戒しないで、俺は高尾和成っていいます!緑間とおんなじバスケ部なの」


人好きのする懐っこい笑顔。
どうしよう、本当にこの人は何がしたいんだろうか。真太郎の幼馴染を長年してきたため、彼の話題を一番に出してくる人には碌な目にあったことがない。
それは彼に対する嫉妬だったり、彼の近くにいる私への嫉妬だったり。私を介して真太郎と懇意になろうとしていたり…どうにも疑り深くなってしまっていて頂けないのだ。先入観で見てはいけないのに、高尾くんの瞳は私を安心させてくれない何かがある。


「でさー」
「あ、はい」
「七瀬さんて真ちゃんのこと好きなの?あ、むしろ逆か?真ちゃんが七瀬さん好きなんかなー」


高尾くんが悪いわけではないのだが、一瞬で失望してしまう。
ああ、やっぱり。
小学生の頃から男の子にも女の子にも同じように言われ続けて、ちがうと言えばからかわれたりじゃあもう真太郎に近づかないでとなったり。
なんでそうっとしておいてくれないんだろう?
なんで興味の対象として私と真太郎を壊されなければいけなかったんだろうか?


幼い頃から気づいたらそばにいた。
息をするよりもずっとそれは自然なことだった。
それだけのことなのに。


「私と緑間くんはそういうのじゃないよ。もう幼馴染でも何でもないくらいに離れたから」
「…七瀬さ、」
「おい」


高尾くんが戸惑ったように口を開こうとしたとき、聞き慣れなくて、でも私を懐かしくて悲しい気持ちにさせる、唯一の声が響いた。
高校生になってまた一段と低い声に落ち着いていて、近くで聞けるだなんて思ってなかったから、心が痛い。快く踊り流れていた脈が一寸鈍って狂う。


「何をしている、高尾」
「えぇーっと。いやぁ、まあちょっと、ね」
「……七瀬に迷惑をかけるな。こそこそ嗅ぎ回らないで、聞きたいことあるなら俺に聞け」


部活行くぞ、とさっさと踵を返す真太郎を高尾くんは慌てて追いかける。去り際に悲しい顔させてごめんね、そんなつもりじゃなかった、だなんて言われたら、怒れないじゃない。


真太郎はどうしてこうも私を離してくれないの。
最後の全中の日に全部壊れて崩れて捨てたのに、こうやってまだ優しさをくれるから。もういらないって、我が儘を言って泣いた私なんてほっといてくれればいいのに。
昔から何でも出来て少し自尊心の強い真太郎は周りからの妬みが絶えなかった。幼いながらにも嫌な言葉を吐かれることあって、繊細な彼はよく泣いていたものだ。
隠れて泣く真太郎を見つけ出して大丈夫だよって撫でて、次の日から真太郎の耳に入らないように手を繋いで私がひたすらたくさん喋るんだ。
その度に真太郎はありがとうって、今度は遙を守るからって約束してくれていたのが、今更になって果たされてゆく。


忘れたいのに、忘れさせてくれない。真太郎もあの時に一緒に捨てたんじゃないの?
自分からすべて投げ捨てたのに、たった一瞬の今の出来事に馬鹿みたいに期待してる。



─誰が何を間違えたんだろうね



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