新学期が始まり九月半ばといえど、まだまだ蒸し暑い。風は秋の匂いを運んでくるのだけれど、湿度があるため夏服でもちょうど良くて、真太郎の部活が終わるのを待つ間にかいたじっとりとした汗を窓辺で冷やす。
三年生になった今、そろそろこの夏服セーラーも着納めだなぁと、生白く伸びる腕を見て思う。
…………いかにも運動の出来なさそうな腕だ。
高校生の間になんか運動しておけばよかったかなぁなどと今更思ったってしょうがないことを考える。
「遙」
「!」
ぼぅっと外を眺めながらとりとめもないことに没頭していると、ふいに現実へ、ゆっくりと、だが急速に連れ戻された。
夕焼けの満ちる教室へと溶け込むように真太郎の低い音が鳴る。馴染む声に振り返れば、部活終わりで少し、いつもの堅いイメージの崩れた真太郎が教室に入ってきている。
普段はきっちり着ている制服も部活後は首元のボタンを多く外し、まっすぐな眼差しに疲れを滲ませていた。
「おつかれさま、真太郎」
「……ん」
かすれ気味に小さく出しただけの声が可愛くて、ついつい笑ってしまう。
付き合い始めてからというもの、真太郎は私とふたりのときには存分に甘えてくれるようになった。昔からどちらかというと私の方が真太郎に構っているような関係だったため、甘えられると可愛くてしょうがない。まだ昔の関係を続けていられると実感でき、嬉しくなる。私だけが知る真太郎だ。
窓辺に立っていた私に寄り添うよう、そろりと隣にきた真太郎の左手を握る。最高学年になってから、後輩も増え主将という立場、そして今年こそは王者へという部員たちの強い覚悟から様々なものを気負っているんだろう。
何てことのないような顔をしていても、三年になってから甘えてくることの増えた彼を見ると、やはりフラストレーションや疲れが溜まっている。一日三回までの例の我が儘も、主将になってからはあまり使っていないと聞くし。使っても部員たちのためだったりと聞いて泣きそうになった。真太郎エライ。
わずかでも心が安らげる場所になれればと、彼の左手の指をほぐすように触れた。テーピングで隠れているけれど細く形のいい指。
大丈夫だよというように、目を見て微笑んだ。
すると疲れていた目元を彼も和らげて、おもむろに近くにあったカーテンを手にとる。真太郎は私ごと包み込んで世界から隔てる。
見上げれば木々からこぼれる夕日で照らされた真太郎の顔があって、すらりとした鼻立ちに、赤に反射する緑の瞳に、見惚れた。
手のひらで私の両頬を包み込んで、そっと、やわらかく。あまく想いを告げるように口付ける。
近づくくちびるに、私も引き寄せられるように重ね合わせて。離れようとするくちびるを惜しむように、もうすこしと彼のシャツを握り強請る。
鼻で笑われた気配がして薄目を開ければ、至近距離で笑みを象る瞳とかち合う。ぺろりと彼のくちびるを舐めてまたまぶたを閉じる。
今度は触れるだけじゃなく、彼のくちびるに食まれながら、何度も何度も繰り返す。
ああ、ほんとうに、好き。
「…まだ、一緒にいたいな」
「今日はうちで夕食を食べて行けばいい」
「お母さん、急で迷惑じゃなぁい?」
「どうせ多目に作っている…それに、母さんも遙を連れてこいと週に三回は言うのだよ」
あまり家族に恋愛事を話すのが好きじゃない真太郎は、赤くなりながらも面倒そうな表情をした。それにふふふと笑いながら、再び手を繋いで教室を後にする。
ちょっとだけ頬が熱い。付き合って二年になるけど、まだ真太郎と触れ合うことに慣れなくて、普段自分以外があまり触れることのない場所に触れられると、恥ずかしい。
それは顔だったりくちびるだったり、手を繋ぐことや髪を撫でられることだったり。
教室の窓、しばらくは直視出来ないかもしれないなと、真太郎と話しながら思った。
窓辺のひめごと
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