遙ちゃんはあまりわがままを言わない。
決して自分の主張がないわけではないが、譲れないときに意見をハッキリ言うのみという印象だ。欲望に従ったものを口にしているところを見たことがないように思う。
真ちゃんと一緒にいるところを見てると、特に我慢してる様子もないしそれが彼女のスタイルなのかなとも思っていたけれど。やはり節々でもっと我が儘言ってもいいんじゃねーの?とお節介したくなる場面が多々あった。


「なーなー。コンビニでアイス買ってこーよ」
「わ、いいねぇ。暑いしアイス食べたい」


日がすっかり長くなったこの頃、遙ちゃんは真ちゃんから部活終了まで待っててもよいという許可が出たため、最近ではよく三人で帰っている。(冬は暗くなるの早い上に寒い中待ってると遙はすぐ風邪ひくからだめなのだよ、だってさー。ノンブレスで言いやがって。遙ちゃん体弱いし気持ちもわかるけど、真ちゃんからこんな愛に溢れた言葉を聞くとはなぁ)
アイス食べようと言えば、やんわり頬と目をゆるめる遙ちゃんに、穏やさで満たされる。
この子はホンットに、なんつーか…やわらかくて穏やかで、そばにいるだけで静かな幸せをくれる子だ。
だから尚更我が儘言って俺や真ちゃんをもっと困らせてもいんじゃねーかなと。いや、遙ちゃんの我が儘になら困るどころか喜んで跪くだろう。



「よっしゃ!俺決ーめたっと」
「真ちゃんは?買わないの?」
「俺はいいのだよ」
「なんだよー、せっかくだから真ちゃんも買えばいーじゃん」
「帰ったらすぐ夕食の時間だろう。遙、アイスを食べるなら食べきれなかった夕食はもらってやらないからな」
「む」


真ちゃんはいつも少食な遙ちゃんを心配してて、ご飯の面では多少厳しい。基本的に遙ちゃんには甘々だから、厳しくしてる真ちゃんを見るのは新鮮だ………と思ったけど、今日は彼女に怒る真ちゃんよりもっと貴重なものを見れた。
遙ちゃんが、拗ねている。
よほどアイスが食べたかったのか真ちゃんの科白が気に入らなかったのか、唇を尖らせ白い頬に空気を含ませて真ちゃんを見遣る。…っなんだよその可愛い仕草は!!
もうキャラ崩壊とか構わずに、遙ちゃんの可愛さに身悶えた。真ちゃんと遙ちゃんは俺が目に入ってないようで、まだアイスを買うか否かで話し合っていた。


「大丈夫だよ、アイスくらい夕ご飯前でも食べれるもん」
「お前は少食なのだから、アイスが入るくらいなら違う栄養を摂るべきなのだよ。だいたいいつも少なめに盛り付けたものをさらに残すだろう?」
「うっ……た、高尾くん…」


真ちゃんのお小言に勝てないと察した遙ちゃんは小動物のように、頼りない表情でこちらを向く。可愛い。いや、まじでこの子天使。尊い。
いやいやいやいや。そうじゃないっしょ俺。


「アイスくらいいーんでねーの、真ちゃん」
「黙れ。遙はそう言って結局いつも肝心の食事が食べ切れないのだよ」
「し、真太郎!」
「まーまー。今日は食べれるよな?遙ちゃん」


自分より低いところにある頭に手を乗せ聞けば、少し顔を赤らめ、ドギマギしながらも頷く。男慣れしてないからいつも近くにいる俺にもこんな感じで緊張する。はー…もう俺眼福。役得。ありがとうございます。
しかし真ちゃんに汚い物のように手を払い落とされる。このやろ、痛ぇよ!
ヤキモチとか、このひたすらクールな緑間真太郎が、こうもわかりやすくするとはねぇ。
遙ちゃん様様だわ。
しっかしまだ遙ちゃんは拗ねながらも抗議してるし…収束つかない。


「お二人さんよぉー。高尾ちゃん帰っちゃうぜー?」
「えっ!あ、えっと、待って今買う!」
「おい、遙!」


レジに向かった俺に、隙あり!とばかりに真ちゃんを避けて追いついてきた遙ちゃん。


「一緒に買おっか」
「うん!はい、これお金」
「あいよー」


レジ袋いらないよな?と聞けばうんと見上げてくる仕草が、これまたかわいいなーと思う。ほんとに俺ったら遙ちゃん至上主義。
でもこのワガママ王様エース様とチーム組んでたらそうなるって。こいつを手玉にとってコロコロと軽く転がせちゃう華奢な女の子。それだけで気になるし、その実正体がこんなあったかくて優しくて、ふんわりした子だったら贔屓しまくっちゃうだろ。
コンビニの外には先に出ていた真ちゃんが眉間に皺を寄せてこちらを見ていた。遙ちゃんは真ちゃんと嬉しそうな声音で呼びながら駆け寄っていく。
不機嫌そうな顔をすぐに照れたような、でも隠そうとしている変な表情にして、真ちゃんは遙ちゃんの髪を撫でた。
ああ、二人の幸せが心の底から愛しい。


「遙ちゃんパピコ二つも食えんの?」
「んー?これはね」


ガサガサと袋を開け、パピコを二つに割ろうとする。
繋ぎ目が固かったのか苦戦していて、かしてみ、と言う前に「ふん!」と意外にも逞しい掛け声と共に割った。吹き出してしまった俺に罪はない。


「もう一個は、真ちゃん」
「は」
「へ?」


俺は奮発して買ったハーゲンダッツの新商品を咥えながら遙ちゃんを見た。ちなみに味はキャラメルマカダミアナッツ。
無邪気に大きく笑って、真ちゃんにパピコを差し出している。
まさかそう来るとは。
込み上げてくる笑いを懸命に堪える。


「………」
「半分こにしたらちゃんとお夕飯食べれるよ。ね?一緒に食べよう?」
「ブッ」


ほだされそうになりながらぽかんと呆気にとられる真ちゃんの顔が面白すぎて吹き出した。


「……いらないのだよ」
「だめ!わたし一人じゃ食べれないもん、食べて」


むぅとむくれる遙ちゃんマジ可愛すぎる。天使。こんな可愛く食べてなんて言われて断る男はいない。
いたとしたら、其奴は最早男ではないのだ。
俺の読みは当たり、真ちゃんは渋々ながらもその白い指先から冷たいパックを貰い受けた。
あーあ。やっぱり。


「甘ぇなー真ちゃんは」
「うるさい黙れ高尾」
「あのさ、ほんとさ。遙ちゃんにあげる優しさの一割俺にもくんない?」
「お前にやるくらいなら、その分余計に遙にやるのだよ」
「…………………」
「?なんなのだよ」
「いや、真ちゃんて本当…」


天然様様だな。
恥ずかしい惚気をいっそ清々しいほどに潔く聞かされても、相変わらずなエース様の対応でも。
隣でこの子が照れくさそうに、でもしあわせだなって顔で笑ってくれてたら、それでいいかなーなんて。



スリーピース!



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