「真ちゃんてさーあ。なんでそんな背デカくなったの?」


はた、と真太郎とお弁当を食べる手を止め視線を合わせる。


「遙ちゃんは知ってる?」
「んー…どうだろう、真ちゃんは元から身長は平均以上だったよ」
「まじか」
「……なんなのだよ、高尾は」


不躾に怪訝そうな瞳を高尾くんにぶつけ、真太郎は不機嫌な声を出す。
いつからと言われたらもう元々の身長が高かったとしか言いようがない。
だって目線が同じときなんてなかった。幼い頃から10cmは差があったような気がする。私は女子の中で高い方だから、あまり真太郎との身長差を気にしたことがなかった。


「確かに、真ちゃんは高尾くんや運動部の男の子たちみたいにすごぅくたくさんは食べないもんね」
「そう!それ!それなんだよー!全然飯にガッツかないくせにさ、ちゃんとウエイトもあるし身長だって充分すぎるくらいでさ!」


よーするに羨ましいわけ!
ビシィ!と効果音が付きそうな勢いで真太郎を指差した高尾くん。
…羨ましいだけですか…


「でも真ちゃん、昔は華奢な感じだったよ?」
「それは子供だからなのだよ」
「まぁ確かにガキの真ちゃんはひょろそうだけど」
「高尾!」
「少食だったもんねぇ。小学校の低学年くらいまではよく真ちゃんのお家でご飯頂いてたけど、ここ最近までめっきりだったからなぁ…」


ごめんねわからないよ、と言うと高尾くんはがっくりと項垂れてからもめげずに真太郎へと直接尋ねる。


「やっぱ家ではガッツリ食ってんの?真ちゃんよぉ!」


どうなの?と真太郎を伺い見るとなぜか冷や汗をかきながら視線をあらぬ方向へやっていた。



「真太郎?」
「はっ!…い、いや、なんでもないのだよ…」
「冷や汗かいてる」


持っていたタオルハンカチでこめかみの辺りを優しく拭う。心無しか真太郎の顔色が青い。
どうしたの、と問いかければ瞳に色を無くし、とても遠い目をしながら話し出す。



あれはバスケを始めてすぐのこと。
家族には事前に勉強の息抜きにバスケをやることにしたと伝えてあったため、遙を連れて公園で練習をしてから家に帰った。
父はいつも帰りが遅い。
母と妹と三人で囲む夕飯がいつもの光景だ。


「ただいま」
「あら、おかえり真太郎。すぐご飯だから手洗いうがいと、汗拭いてきなさいね」
「ああ」


母の声を背中に受けながらリビングを通り過ぎて洗面室へ向かう。
手洗いなどを済ませ、リビングに行くと母が笑顔でこちらを見ていた。


「真太郎はバスケ始めたならたくさん食べないとね」
「いや、母さん、いつも通りで大丈…」


大丈夫なのだよ、と続けようとした言葉は目の前に置かれた大量のご飯達によって遮られた。
まさか…まさかこれをすべて食べろというのか。肉野菜炒めに鯖の塩焼きに味噌汁にご飯、和え物に冷奴。
バランスはいいしどれも少し手の込んだアレンジを加えてあるから美味しそうだ。
しかし。主菜が二品あるしすべてがどんぶりサイズとはどういうことなのだよ…!


「か、母さん。これはいくらなんでも、」
「真太郎も男の子だもの。遙ちゃんをしっかり守ってバスケも強くなれるようにたくさん食べて大きくならないと!全部食べてね」


全部食べてね、がこれほどまでに恐怖を伴って聞こえたのは生まれて初めてだった。



わたしが持っているものよりふた回りくらい大きいお弁当箱を見つめて、


「…それから体が出来上がるまでしばらく大量の夕食を強いられたのだよ…」
「そ、そうだったんだ…」
「なんか…ごめん真ちゃん」



幼馴染を守るための苦い思い出



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