真太郎の進言で、めずらしくキセキの皆さんが集まるところに私も同行することになった。何ヶ月かに一度、東京のストリートバスケ場に集まって遊んでるようで、何回か真太郎を見送っていた。
曰く、『あいつらも遙のことを知っている。今まで俺の話にあいつらが出てくることも多かったし、会っておいて損はないのだよ』とのこと。要するに各個人を認識しておけと。
名前と顔なら一致してるんだけど、と思うも、中学時代は真太郎自身とも疎遠だったため真太郎は私が彼らを知っていることを知らない。
しかし私は会わせてくれるというのなら先約もないしついていくか、くらいのレベル。特に楽しみとかはない。キセキの人たちは有名だったけど、私はあまりそれぞれの性格や個人情報を把握してるわけじゃないからこれといって興味はなかった。しかも今は真太郎が彼氏だから、なおさらキセキの人たちに会えることに対しての感動と期待は持てず。これを美咲に言うと、『彼氏しか眼中になくて興味ないだなんて、なんてナチュラルなのろけだ!』らしい。
うーん。そうなのかな。
ただ、公式戦や部活ではないバスケをしてる真太郎が見れるのは心弾むものがある。
「真太郎は練習着のままストリートバスケのとこまで行くの?」
「ああ、私服で行くと荷物になるからな。ジャージだけ持って行く」
「私、特に持ち物とかある?」
「いや。すまないが俺たちがバスケをしている間、ベンチで荷物を見ていてくれるか?」
「うん、わかった」
にこりと頷けば真太郎は、私の頭で左手をさらりと一往復させた。
うれしい。
おそらく真太郎がストリートバスケの場所を指定したため、徒歩圏内のところだ。この間体調を崩して熱を出したことが彼の中で尾を引いていたのだろう、彼はわざわざご近所を指定していた。
合わせてくれた皆さんには申し訳ないことしたな。約束を取り付けたあたりから真太郎の携帯に頻繁に電話がかかってきては、少々怒り気味に話すことがよくあったのだ。他のキセキの人たちはもう少し違う場所がよかったのだろう。
会ったら謝らなきゃ、と思いながら手を繋ぎとてとて歩く。
長い足をゆっくり動かしてくれる真太郎は本当に優しくて、隣を歩く度に彼の私への思いに触れるようで心が満たされる。
「どうした?」
「なんでもないよ」
「…今日は無理するな、体調に変化があったらすぐ言うのだよ」
「うん。でもお夕飯もみんなで約束してるし、せっかく集まってくれるから」
「赤司や紫原は難しくても、他の奴らはいつでも会えるのだよ。俺や他の奴らのことは気にしなくていい」
「ありがと」
繋がれた右手を、きゅっと強めに握る。
幸せだなぁ、なんだかもうストリートバスケ場に着かなくていいかも。
このまま真太郎とお散歩デートで満足かも。
「着いたのだよ」
「、はーい」
「自販機でドリンクを買う」
「あ、私が買うよ!皆さんの分も買う!何がいいかな?」
「そんな気を遣う必要ないのだよ。菓子も作ってくれたのだろう?」
「んー…でも、一応ね。私の自己満足だから気にしないで」
そう言えば渋々といった顔で、一緒に何種類かあるスポーツドリンクのうち、誰は何が好きだとか、あいつは水がいいだとか教えられて購入する。
作ってきた大量のお菓子を入れているエコバックの中をささっと整理し、そこにドリンクも入れる。
む、中々に重いな…
「遙」
「?」
「ほら」
「……えへへ、ありがとう」
真太郎が当たり前のように手を出して、重くなった荷物を持ってくれた。頬が熱くなったのが、自分でもわかった。
コートの近くまで行くと様々な髪色の人たちがわいわい集まってるのが見える。近づいて行けば長髪の女の子が男の子と何か言い争ってるようで、どうしたんだろう?と真太郎を見上げればいつものことなのかため息をついていた。
「お前たちは何をやっているのだよ」
「みどりん!と、遙ちゃんだぁ!」
「緑間君と七瀬さん、お久しぶりです」
「久しぶりだね、緑間に七瀬さん」
あ、言い合っていたのは桃井さんと青峰くんか。
パッと華やいだ表情で私のもとに来てくれた桃井さんに久しぶりだね、と言って差し入れやらなんやらを渡す。
「いい匂いー。なぁに、お菓子あるの?」
「遙ちゃんが作って来てくれたんだよ。独り占めしちゃダメだからねむっくん」
そう言ってかなり大きい──けれどお菓子が大好きだという紫原くんに見つめられる。
きっと彼は私のことを知らないだろうが、まぁいいやと微笑んでおく。
すると彼も存外愛想はあるようで(存外、と言ってしまうのも失礼だとは思うが)、へらりと微笑んだ。
そうしてすぐに元帝光中のバスケ部の皆さんはコートの中へと入っていき、バスケを楽しんでいた。
桃井さんはテツくーん!とベンチから叫んだり仲間に入って行ったりしているから、その間に休憩時のドリンクや作ってきた甘いものがすぐ渡せるよう準備をしておくか、と動き回っていると、ふとおしりのあたりに風が入り込んだ。
スカートが捲れたのか?と後ろを向けば、青峰くんがしゃがみ込んでいる。
「!?……っ!?」
「なっ…!?おい!遙に何をするのだよ!」
「ほー。白にピンクのレースか。中々だな」
「何が中々なのだよ!!触るな!」
「だってよー。その白ーい太ももをちらちらスカートが動いてたら捲りたくなるだろ?黄瀬もそう言ってたぜ」
「黄瀬ぇ!!」
「言ってないっス!!」
「パンツどんなのはいてるのかなーって。コイツが」
「だから言ってねーよ!ふざけんな!!バカ青峰っち!」
青峰くんにスカートを、ぺらりと捲られたらしく…私が顔を真っ赤にしてる間に口論が繰り広げられていく。
真太郎はすぐさま持っていたジャージを私の腰に巻きつけ、抱き寄せてジャージで隠れたおしりの辺りを手で押さえるという警戒ぶりである。
しかし真太郎がこうもぎゃんぎゃん吠えて怒るのもめずらしいな。
逆に私が冷静になってきちゃったんだけど。
「あ、あの…」
「だいたいお前はいつも変なことばかり考えすぎなのだよ!遙を邪な目で見るな!!そして触るな!!」
「いいじゃねえか、減るもんじゃねーし。黄瀬も乗り気だったし」
「だからちげーよ!!」
「あ、青峰くん、黄瀬くん」
「あああああああ七瀬さんごめんごめんね、本当に俺見たいとか言ってないからいっつもこういう小学生じみたことすんのバカな青峰っちだけだから」
「てめっ」
「えっと…二人とも。変なもの見せちゃってごめんね?」
恥ずかしいながらも、真太郎の腕の中から二人を振り返って苦笑する。
いや、だって男の子は揺れるものが好きらしいし。好奇心旺盛な青峰くんのことだ、めくってみたくなるのも仕方ない…のかもしれない。
それがたまたま私だっただけで、桃井さんなら目の保養になっただろうに、とも思う(そんなことしたらセクハラだし桃井さんに失礼なんだけどね)
「なんで謝るの七瀬さん!謝っちゃだめでしょ!このバカ調子乗るよ!?」
「おいてめぇコラ覚悟しとけよ」
「そうなのだよ、遙が謝ることなど何一つないのだよ。この馬鹿が低俗なだけで」
「よーしお前らふたりまとめてコート行け。ぶっ殺す」
「ふざけるな、むしろ臨むところなのだよ」
「二対一とか青峰っち負けるんじゃないっスか?」
な、なんかよくわからない流れになってきた。真太郎はよっぽど青峰くんに怒ってるのか意気揚々とコートに入ってくし、黄瀬くんも青峰くんを負かすつもりらしく挑発的な笑みで真太郎の肩に腕をかけている。
私はどうしたらいいんでしょうか。
とりあえず真太郎のジャージを腰からとり、ベンチに座って見守る。
「青峰が失礼なことしたね」
「!赤司くん」
「あいつはいつまでたっても小学生みたいだから…スカート捲るなんて、本当にすまないな」
「あ、ううん。そんなに謝らないで。私こそなんていうか…みんなの前であんなもの見せちゃって恥ずかしいし。ごめんね」
パンツ見せてごめんなんて言うのは照れくさい。照れるどころかこんな台詞を言うことなんて人生であるかないかではないのだろうか。
はにかみながら伝えれば赤司くんは驚いたのか目を真ん丸くした。
前から思ってたけど、流し目のときはあんなに色っぽいのに驚いたり笑ったりすると幼くなるよなぁ…うん、可愛い。
「君は本当に…」
「?」
「…いや、何でもないよ」
目尻を下げて、とろんとやさしく笑う赤司くんは初めてだ。途中で切られた言葉が気になるけど、この表情から察するに悪いものではないような。だから気にしないでおこう。
にこりと笑えば、彼は楽しそうに歯を見せた。
子供らしい表情が微笑ましくてニコニコと見ていれば、隣に人の気配がしてあっという間にしなだれかかられる。
「遙ちゃーんっ」
「桃井さん。おかえり、黒子くんと紫原くんと遊び終わったの?」
「んーん。テツくんもむっくんもきーちゃんや大ちゃんたちのとこに混じりに行ったから」
「めずらしく緑間がお遊びに本気出すからね」
「そっ。ミドリンがめずらしくねー」
「え、そう?」
赤司くんに言われてコートを見ればいつもはスリーポイントを打ってばかりの真太郎がやけに動き回っていた。
「ほー…あんな動き回ってる真太郎、赤司くんの学校と戦ったとき以来かも」
「いや、オレと戦ったときより好戦的だよ」
「ねー」
桃井さんと赤司くんは笑顔でこちらを向く。え、なんだろう。
「愛されてるね、遙ちゃん!」
「え?え?」
「桃井。七瀬さんが置いてけぼりだろ」
「でも私だって負けないくらい…んーん、それ以上に中学の頃から遙ちゃんのこと大好きなんだよ?」
くりん、と抱きつかれた態勢のまま上目遣いで桃井さんは私を見た。
中学のときからって…
「桃井さんは…」
「さつき!」
「…えーと」
「さ!つ!き!」
「……ごめん七瀬さん、呼んでやって」
「う、うん。じゃあさつきちゃんはさ、」
「うん!なぁに?」
またキラキラと輝いた目で見上げられ、デジャヴを感じる。黄瀬くんにもこんな風に見られるんだけど、私懐かれるようなことしたかなぁ…
「ほら、君は一回桃井を女子のいじめから庇っただろう?」
「……あ。あれ?」
「そう。あの一件からの桃井はすごかったよ。七瀬さんを見つければ釘付けだし、話もきかないし。緑間が幼馴染だって話したら食らいついた挙句彼を責め出したからね」
「ちょ、赤司君!」
赤司君の暴露にさつきちゃんは慌てだし、私を挟んで赤司君に対して叩こうと手を振りかぶる。赤司君は私がいればさつきちゃんが強く出ないとわかっているのか、若干私を盾にしつつ笑っている。
ちょ、さつきちゃん重くはないけどさすがに全体重を私にかけてこられると耐えられないから。笑ってないで助けてよ、と思ってるとやはり私の体はさつきちゃんに負け、ぱすっと赤司君に抱きとめられる形になった。
「ほら桃井、危ないよ」
「赤司君が悪いんじゃない!」
「まぁオレは七瀬さんを抱きしめられて役得だからいいけど」
「へ」
何を言い出すの、と彼を見上げれば、コートから真太郎の怒声が飛んできた。
「赤司──────!!!!!」
「やれやれ。おちおち触れることすらできないね」
走ってくる真太郎をからかうように私の髪をとって微笑む赤司君。
ううむ、美しくも可愛らしい。
感嘆していればさつきちゃんが赤司君の手をはたき落とした。こらこら。可愛いのにそんなことしちゃいけません。
赤司君を叩いた、やわらかで小さい彼女の手を掴み笑う。すると彼女も目を喜びに満たせてきらきら笑うから、賑やかな休日もたまにはいいかもなんて思えた
「ねえ、大好きよ遙ちゃん」
七億年だって待つよ
緑間とのいちゃこらかと思いきや桃色エンド
さつき無双
ALICE+