数年ぶりの高校生活が始まり、半日がたった。
初めは久しぶりの制服に罪悪感と羞恥心を覚えて、緊張も重なるわですごく気分が悪かったけど、編入したクラスのみんなは思った数百倍良い子たちで、一気にたくさん可愛い後輩が出来たみたいな気持ちになって嬉しくなった。
「……本当に覚えてないのかい?」
「う、うん。なんか、ごめんね」
現在お昼休み。目の前で少し寂しそうな顔をしてこちらを見ているのは、かの有名な、イップスとかいうよく分からないもので恐怖テニヌを繰り広げる、神の子と呼ばれている彼。そう、彼。
「少し……いや、かなり寂しいけど事故の後遺症なら仕方がないね。」
「逆に幸村はよく私のこと覚えていたね」
「もちろんさ!君は一度話したら忘れないよ、フフ」
(えええ……そんないいもんじゃないのに)
奇跡的に彼らと同学年で、奇跡的に幸村精市と同じクラスという強運の持ち主は私です。
幸村によれば、彼と私は中学時代、全国大会で何度か顔を合わせたことがあるらしく、彼から声をかけてくれた。
前の記憶を思い出したとはいえ、全ての記憶を取り戻したわけではないから、彼らとの関わりみたいに知らないこともまだ多くありそう。
「隣の席だとはいえ、無理して私とお弁当食べなくてもいいのに。まあ今更なんだけどね」
「そうだよ今更だよ。それに久しぶりの再会なんだから」
「あらやだ嬉しい」
幸村ってこんな優しい子なのね。お姉さん泣いちゃう。というか、再会を喜ぶくらい仲が良いのね私たち。でも、ほとんど変わってないとは言え、100%同じ人格なわけではないから、これから関わっていく中で嫌われる可能性もあるなー。せっかくこんなに可愛い弟みたいな存在ができたのに。
(──ま、いっか)
「…そうだ! 連絡先、交換しようよ。LIMEでいいよね」
「え」
はい、とQRコードを差し出される。拒否する理由もないのでもそもそと鞄からスマホを取り出してQRコードを読み取る。
「追加したよ」
「ありがとう。何か困ったことがあったら気軽に連絡してね。編入して間もないんだし」
「あ、ありがとう……?」
幸村、私にすごい優しくない?男子高校生ってこんなもん? もう昔のことすぎて忘れたわ。
▽ ▽ ▽
怒涛の初日が終わりを迎えた。
(つ、疲れた……)
ただ単にRE高校生活を始めるのにもかなり疲れるのに、さらにあの幸村精市と同じクラスでしかも隣の席。加えて連絡先も交換するわ、お昼ご飯を一緒に食べるわ、移動授業の時に案内までしてもらった。
え?なに、私死ぬの? クラスメイトからの視線及び移動教室の道中に刺さる視線にやられるの? さすがに恥ずかしいんだけども。
どうしたものか。中身が未だ成人している私にとって現役高校生と馴れ合う元気はないと思うから、必死こいて友達をつくるつもりは全くないけど、クラスのみんな(特に女の子)から嫌われるのは何かと面倒だなあ。例えば宿題見せてほしいときとか、テスト範囲教えてーとかそういう事務的なことも教えてもらえなくなるのは学校生活に支障が出てくるし。
(かと言って幸村の優しさも無碍にできないし)
(まあ、嫌われたらその時はその時だな。うん)
「あ、名前ちゃん帰るの?」
「うん。疲れたし帰るよ。またねー」
「また明日! ばいばい!」
今日1日私に親切にしてくれた他のJKたちも、またねー!と笑顔で挨拶してくれた。やっぱりJKはいいな。みんな生き生きしていてとても可愛らしい。つい甘やかしたくなる。特に今挨拶してくれた子たちはすごく可愛い。性格の良さが溢れている感じで好印象。クラスガチャ運最強説が濃厚。
因みに幸村はクラスの男の子に呼び止められて何か話をしているので近くにいない。
自分の下駄箱に手を突っ込んでローファーを手に取って靴を履こうとした時──
「おい」
「ん? ……あ」
柳蓮二じゃないですか。
「これ、落としたぞ」
「え、あ……」
スクバについていた通天閣ストラップが落ちてしまったようだ。
「ありがとう」
「A組の柳蓮二だ。お前は……渡辺オサム監督の姪の名字だったな」
なんで柳が私のこと知ってんの──って思ったけど、あれか。中2の時に面識あったんだったな。記憶ないけど。
「アー……うん」
「まさかここで再会するとはな。精市とはもう話したのか」
「幸村のこと? うん、話したよ」
「そうか。ならば良い。改めて、これから宜しく楽しむ」
(ならば良いって何?)
ズイッと右手を差し伸べて握手を求められたので一応軽く握手する。
「う、うん……宜しく」
(仕事で他会社との打ち合わせしてるみたいな空気でウケる)
「じゃ、そろそろ帰るよ」
「ああ。呼び止めてすまなかった。またな」
1日でテニス部レギュラーズに2人も遭遇するなんて。やっぱり私って強運なのかな。
(今日は帰ってお風呂入ったらすぐ寝よ)