03

幸村視点



「名字名前です。今日から宜しくお願いします」





正直、自分の目を疑った。
だってもう会えないだろうと思ってた彼女が目の前にいるのだから。



「名字さん、じゃあ空いているあの席に座って?」



そう担任に言われて俺の隣の席に座った女の子。



(間違いなく、あの子だ)



▽ ▽ ▽





3年前と2年前の夏の全国大会で本当に少し話しただけでもう会うことはないのかな、なんて勝手に思っていたけど、奇跡的に彼女が立海に編入してくれたことで再会することができた。

隣の席についた彼女に声をかけようとしても、何故か緊張して話しかけられなかった。









そんな風にして話しかけるのを躊躇っていたら、お昼休みになった。

思い切って、去年の夏ぶりだね、と声をかけると、「私たち会ったことあった……?」と返された。単純に忘れてるのかと思って、去年の夏のあの時のことを話しても、名字さんは本当に何も憶えてないようで、聞けば、彼女は少し前に事故にあって、そのせいで事故前の記憶があまり無いのだとか。




「……本当に、覚えてないのかい?」

「う、うん。なんか、ごめんね」



眉を八の字にして謝る彼女を見て本当に忘れているんだな、なんて悲しく思った。



「少し……いや、かなり寂しいけど事故の後遺症なら仕方がないね」



彼女に憶えてもらえてないことに寂しさを感じた。でもそれを嘆いても何もならない。



「逆によく幸村はよく私のことを憶えてたね」

「もちろんさ! 君のことは一度話したら忘れないよ」



まともに話したのは2年前のあの時限りだったけど、彼女が俺に与えたインパクトは大きかった。だから忘れるわけがなかった。

記憶がないとは言え、彼女が名字さんであること、また再会できたことには変わりない。そう、彼女はあの時の名字さんと何も変わらないんだ。そもそもそこまで仲良かったわけじゃないんだから、そんなに落ち込むこともないじゃないか。

そう思ったら気持ちが晴れてきた。これからクラスメイトとして毎日顔合わせられるんだし、むしろこれからだ。積み上げたものがなくなるわけじゃないんだ。



「隣の席だとはいえ、無理して私とお弁当食べなくてもいいのに。…まあ今更なんだけどね」

「そうだよ今更だよ。それに久しぶりの再会なんだから」

「あらやだ嬉しい」



やっぱり名字さんが持つ雰囲気や、彼女がつくる空気は他のやつらとはどこか違う。何が違うかと言われると言語化できないけど、なんか、不思議。だからこそ好奇心が湧いてもっと話したくなる。




「…そうだ! 連絡先、交換しようよ。LIMEでいいよね」

「え」



はい、と俺のQRコードを差し出す。

この前は交換するタイミングがなかったから、今度は。それに、クラスメイトなら交換すべきだ。

されるがまま、といった感じで彼女はスマホを取り出して俺のQRを読み込む。



「追加したよ」

「ありがとう。何か困ったことがあったら気軽に連絡してね。編入して間もないんだし」

「あ、ありがとう……?」



自分の友達欄に名字名前というアカウントが追加された。それだけのことなのにさらに気分が良くなった気がした。



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