編入してから3日経ち、相変わらず幸村は私によく絡んでくれるし何ならお弁当はいつも彼と一緒に食べてる。他のクラスの子たちはと言うと、幸村に異様に好かれている女子として腫れ物扱いされたり、なんか分かんないけどすげえ奴みたいに思われたり(実際に数名からそう言われた)、単純に私自身を気に入って仲良くしてくれるJKがいたり……と、全体的にみんな優しい。
問題なく高校生活が送れてることに驚き。ポッと出の私が毎日幸村と話してたりしたら、女子から反感を買うんじゃないかとびくびくしてたけど、案外そうでもなさそう。ファンクラブとかも存在しないみたいだし、いじめとかはただの被害妄想に過ぎないのかもな。
▽ ▽ ▽
「そういえば、名字さんは部活とか入らないの?」
「うん」
お昼休み。今日も今日とて私は幸村と共にランタイム。
今回は部活動勧誘をしてくるのかな。いや、入らないに決まってる。現役高校生と部活動を楽しむほど若くもないし、これと言って入りたい部活があるわけじゃない。委員会ならいいかもしれないけど、部活は面倒。それに、一人暮らしだから色々と忙しい。
「テニス部のマネージャーに興味はない?」
「うん、ない」
即答。
ごめんだけどマネージャーだけは嫌だわ。いくらイケメンしかいないテニス部のマネージャーでも、御免だよ。それこそマネージャーになった暁には本当に女子から嫌な目で見られそう。
「俺としては、名字さんが俺たちのマネージャーになってくれたらすごく嬉しいんだけど」
「冗談やめてよー、そんなこと言われても困る」
すごい食い気味に質問してくるじゃん。どうした幸村。そんなにマネージャー乞食なの?
「えー、なんで困るのかい?」
「エッ……だ、だって私忙しいもん」
「忙しい?」
「うん。色々あって、今ほぼ一人暮らしみたいな状態だから家事とかあるし、バイトもしたいから」
「バイトは基本禁止だよ、立海は」
おいおいそれは聞いてない。両親からの仕送り生活でお金に困ってないとはいえ、自分の洋服とかその他の嗜好品を買うお金はやっぱり自分で稼がないと思ってたのに。
どうしよう、きっと基本禁止ってことは申請すれば良いんだよね?……あ、でも両親の収入的にはアルバイトする必要ないとか言われそう……くそ。八方塞がり。
「……兎に角、部活はしないし、強豪テニス部のマネージャーなんて尚更無理がある」
「そうか……割と本気で君にマネージャーになってほしいな。まあ、残念だけど、無理に入部させるのは嫌だからな。気が向いたらいつでも言ってくれて構わないよ。俺はいつでも歓迎するから」
「お、おう……」
いや諦めろや。すごい笑顔で言われても無理なものは無理だから! 確かにマネージャーになれば合宿とかで原作読んでた時にすごい好きだった跡部様に会えたりするかもしれないけど、それだけのために入部したら多分私は三日坊主で終わってしまう。
「っというか、マネージャー候補なら幾らでもいるでしょ」
「案外そうでもないんだ。中学はいたんだけど、高校に上がってからは誰もマネージャー立候補しないんだ。俺も正直驚いた。サッカー部とか他の部活にはいるんだけどな」
「
「フフ、食べながら話すのは行儀が悪いよ?」
「……ウス」
立海男子テニス部マネになりたい人なんて沢山いそう。幸村が考える条件に合う人がいないだけで、実際はマネージャーやりたい生徒はいるんだろうな。まあ、だから大丈夫だと思うし私は断固としてどこにも入部しない。面倒だから。
「ハァ、本当にマネージャーになる気がないみたいだね。なら、マネージャーなることで君が得るメリットを見つけたらその都度言うから。それからまた考えてね」
「いや話聞いてた?」
だめだ。忙しいなんて理由では諦めてもらえないのか。
その後すぐに予鈴が鳴って、急いで残りのおかずを掻き込んだ。
▽ ▽ ▽
──LHR後。
幸村が部活に行ってくれたおかげでやっとフリーダムになった。
「ねえねえ名前ちゃん」
前の席の割と仲のいいJKに声をかけられた。
振り返るだけで可愛いなこの子。
「せっかく幸村くんから誘われてるんだし、テニス部の見学くらいには行ってみたら?」
「あの話聞いてたの?」
「聞いてたも何も、あんなに勧誘されてたら嫌でも耳に入るし視界にも入るよ!」
「あらら……ごめんね。迷惑かけて」
そうか。幸村の勧誘行為はやはりクラスみんなに認識されてたか。
「謝る必要ないよ。それに、名前ちゃんが来てから幸村くんの意外なところを沢山見れて、あたしだけじゃなくてこのクラスのみんな面白く思ってるよ」
「まるで見世物……」
「あたし中学生2、3年って幸村くんと同じクラスだったけど、あんな幸村くん初めて見るもん」
あ、この子は内部進学なのか。というか確かこのクラスの半数以上が内部進学組だったんだっけ。
「え、逆に今までの幸村ってどんな感じなの」
「んーと、誰に対しても分け隔てなく接する、非の打ち所のない人間(仮)!」
「(仮)って何か笑える」
「だって、完璧すぎて本当に人間?って感じするじゃん?幸村くんイケメンだし優しいから好きになる女子も多いけど、テニス一筋なのは明らかだし、前は告白する子もいたみたいだけど、今はほとんどいないらしいよ。外部から来た子からも告白はされてないらしい」
「へー。イケメンって大変だね。そんな情報まで知られてて」
「ね。けどそんな人間味の少ない幸村くんが、最近は他の男子と同じような雰囲気だし、実際名前ちゃんと話してるときは幸村くん人間っぽい」
「人間っぽいは草」
ほーん。それにしても、人間味ないのは分かるわ。テニヌプレイヤーの中でも幸村は神の子って異名があるくらいだし確かにそう思われてもおかしくはないか。
「で、そんなやっと人間っぽいところを見せてくれた幸村くんのためにも、1回くらいテニスコート行ってみたら?」
「う、うーん」
「実は私、女テニのマネなの。これからテニスコートに向かうから、一緒に行かない? 正門から帰るにはそんなに遠回りにはならない距離だしさ」
「え、えーと」
「ほら!行こ!ね!」
ガシッと腕を掴まれて、強制的に彼女とテニスコートに向かうことになってしまった。
▽ ▽ ▽
テニスコートの外側まで案内してくれた。
強豪テニス部なだけあって綺麗に整備されたかなり広いテニスコートが視界いっぱいに広がる。
「あ、あそこ見て。幸村くん、真田くんとラリー打ってる」
確かにそこにはただのテニスをしている美形2人がいた。
(真田って、こうして見ると案外そこまで老けて見えない……と思ったけどやっぱりアレは完全に成人してるわ)
「やっぱり幸村くんって美人だよね」
「それは同感」
「あ!幸村くん今こっち見たんじゃない?」
「気のせいだよ。……おっと、私そろそろ帰らなきゃ」
「あ、そうなの? って私ももう行かなきゃ! じゃあまたね!」
「また明日」
危ない危ない。確かに完全に幸村と目が合った。気がするとかではなく完全にこっち見てたよアレは。
早足で校内を出て、真っ直ぐ家に戻り、明日幸村から何も追及されないことを祈るばかりの私であった。