05


「ふぅ」



お風呂上がり。

ドカッとソファーに座ってぼーっと天井を見つめる。

今日もまた忙しい日だったな。お昼休み以降、幸村には何かとマネになるように説得されたが、私は部活に入らないの一点張りで、永遠に両者並行してた。



(幸村があんな調子だから忘れてたけど、私、今あの漫画のキャラクターと同じ世界を生きてるんだよな)



今日、テニスをしてる彼を見て改めて思った。漫画で見た人物と同じ世界を生きてるなんて、冷静に考えたらかなり可笑しいことだし誰も信じないようなこと。でも実際に私に起きてるんだよな。

原作を読んだのは私が現役中学生だった頃だから、随分と前のこと。あの時はそれなりにハマって跡部様という推しもいたな。懐かしすぎて泣けてくる。あの頃は、もし彼らを目の前にしたら緊張して何も話せない!とか思ってたっけ。



「でも、幸村とは普通に話せてるよね」



あんなに美形の幸村を目の前にしても緊張しないし通常運転で接してる……。まあ、これは彼らが"年下の子たち"っていう風にしか見えてないからかな? 多分。

公式でもイケメンと言われている白石とかに会ったらさすがに緊張するのかな。……もうよく分からん。


「そんなことより明日のお弁当作らなきゃ」



そう思って冷蔵庫に手をかけ、目の前に映ったのは一枚のメモ帳。



"本日特売日。スーパーへ"



そうだ。朝メモしてすっかり忘れてた。国産牛が食べたすぎて買いに行こうと思ったんだ。

ハッと時計を見ると、今日は早めにお風呂に入ったからまだ6時半。まだ余裕で間に合う。よし、とっとと行こう。



▽ ▽ ▽





(国産牛安くなってる〜!嬉しい〜!)



ニコニコしながら脂身の少なそうなお肉を厳選する。



「よし、これだ」

「あ」

「…え?」



パックに手を伸ばしてカゴに入れた時、あ、とすぐ近くで声がしたので左を向くとそこにはCV.直純がいた



(直純…!じゃなくて……)

「お前、名字だろ? 幸村君から聞いてるぜ」

「は、はあ……」

「俺、丸井ブン太。シクヨロッ」

「し、シクヨロ」



まさかのスーパーで遭遇なんて驚き桃の木。っていうか何で私の顔まで認識してるわけさ。別にいいけど。



「じゃ、私はこれで」

「ちょ、おい!待てよ!」

「ん?」

「さすがに素っ気なさすぎんだろ! 俺たち前に1回会ったことあんのによ」

「──ああ。そう言えばそうらしいね。でも私」

「幸村君から聞いたよ。憶えてないんだろ? まっ、お前とまた会えたのも何かの縁ってことでよ、改めてよろしくな。俺のことはブン太でいいから」

「よろしく、丸井」

「いや何も分かってねぇじゃん。つか、それよりお前1人で来たのか?」

「そうだけど」

「女子が1人で夜道歩くなんて危ねえだろぃ」



優しいな、ブン太 丸井。こりゃモテるわ。



「お前ん家、どの辺?」

「××公園の近くだけど」

「俺の帰り道だわ。丁度いいし俺と一緒に帰ろうぜ、な!」



なぜそうなる?お人好しにもほどがあるよ丸井。こりゃモテるわ。



「あっ、いたいた。ブン太こんなとこで何して──」

「ああ、すまねえジャッカル。こいつと一緒に帰るって話してたんだよ」

「私は一言も賛同した覚えはないけどね」



桑原ジャッカル氏、貴方もいましたか。



「お前、もしかして名字か?」

「うん」

「まさかこんなところで会うとはな。俺はジャッカル桑原。幸村と同じテニス部員」

「よろしく。あの、ごめん、本当にもう行かないといけないんだけど。お肉を早く冷蔵庫に入れたいし」

「こいつはすまねぇ! ほら、ブン太も会計しに行くぞ」

「お、おう!」



いや何でついて来るのさ。てか間近でジャッカル見るとやっぱり外国人なんだな。








「俺たち実は早くお前と話してみてえなって話してたんだよぃ」







結局私は大人しく丸井とブラジリアン桑原と一緒に帰ることにした。



「なんたって幸村が女子のことを自分から話すなんて、本当に珍しいからな」

「ああ。幸村君が名字をマネージャーにしたいなんて話したときはマジで耳を疑ったよな。今までマネージャーは要らないって言ってたのに」

「そうだな」

「あ、それについてなんだけど、私本当にマネージャーになる気は1ミリもないから」

「ああ、知ってる。今日の部活でも言ってた」

「あの様子だと幸村君、お前がOKするまで勧誘し続けるだろうなー」

「え。やめてよ怖すぎ」

「ハハッ、そうビビんな。取って食いはしねえよ」

「そーだぜ。それに、なんでお前はマネになんねーの?」



面倒だし、テニス知らないし、そこまでの器量もないし、何しろ学校以外のことで忙しいと述べると、丸井とブラジリアンは苦笑いして──



「本当にお前に器量がなかったら、多分幸村はお前を最初から勧誘なんかしねえ」

「面倒かどうかも、やってみねえと分かんねえだろぃ?」

「家事とかその他諸々で忙しいから無理」

「頑固だな、お前も」

「アッハハ!似たもの同士で良いじゃねえか!」



どこらへんが良いのか。自由気まますぎない?テニヌ部員たち。



──ブーッブブブッブーッ



私のスマホが鳴った。電話だ。



「もしもし」

『おお、名前!元気しとるかー?』

「うん、オサムちゃんは?」

『元気盛り盛りやでぇ。なあ、突然ですまんのやけど、ゴールデンウィークの3日間、わしのためにアルバイトせえへん?頼むわぁ』

「アルバイト?」

『せや。カクカクシカジカで、四天宝寺テニス部の合宿の手伝いをしてもらいたいんや!』



は?何を言ってるんだこのチューリップハットは。



「え、ごめん意味が分からないんだけど。立海ならまだしも、なぜ四天宝寺?」

『実は──』



どうやら、チューリップハットによると、昨日──つまり4月14日に誕生日の四天宝寺テニヌ部員、白石蔵ノ介が、チューリップ野郎の「誕生日やからほしいものなんでも言いや!」という提案に対して「今度の合宿でまた名字に会いたい」と答えたことが事の発端のようで。



「──え、だから合宿に参加しろと?」

『アルバイトやから!時給もちゃーんと出る!な?!教え子を裏切りたくないねん…!』

「だからって姪を踏み台にして良いなんてことにはならないと思うけど……時給いくら?」

『800円!いや、900円!朝の8時から夜の8時までやとして、それが3日!不味い話ではないやろ〜』

「オサムちゃん、そんなお財布に余裕あった?」

『あっはっはっ!なんとなんとオサムちゃん、宝くじが当たって今金持ちやねんな〜』

「へー。すごー。」

『棒読みすな! 兎に角、どや?引き受けてくれるか?』



ふと我に帰って目の前を見ると、律儀に電話が終わるのを駄弁りながら待っているテニヌ部員2名がいた。



「あー、明日また電話するよ。おやすみ」



ブチっとENDボタンを押して、スマホをポケットにしまう。



「2人とも待ってなくて良かったのに。律儀だね」

「いや、ここで俺らが帰ったら一緒にいる意味ないだろぃ」

「それより、電話、大丈夫か?」

「ああ、うん。特別問題ないよ。ごめん、待たせた」



それから学校のこととか2人のことを聞きながら家の近くの公園まで送ってもらい、無事帰宅した。



(このお肉で何しよう!楽しみ〜お肉〜!)



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