独特な喋り方をする、ふわふわした生き物。 可愛い、の一語で済ますことができない。もはや、可愛いという言葉で表現することができない。わたしのちっぽけな語彙力では足りないのである。わたしの目の前でちょこまか動いているのだが、今すぐにでも持って帰りたい。あの子たちが毎晩わたしの帰りを玄関で待っていてくれたらどんなに癒されることだろう。少し想像して、口元が緩む。そこでここは支部の中だということに気づいて、慌てて口元を隠した。誰にも見られていないかときょろきょろ辺りを見渡しては、ホッと一息。 そんなわたしが溺愛してやまない生き物の名前はホムンクルスと言う。彼らも支部でよく働いてくれる立派な子たちである。キラキラ、と彼らが呼ぶものが給料で、それを与えると非常に喜ぶ。その光景も可愛すぎて、抱きしめたい衝動に駆られるのだ。これはわたしに限ったことではないと思う。なぜなら、エスカちゃんやルシルちゃんもホムンクルスをとても気に入っているからである。 それにこの支部でも硬派で有名な彼もホムンクルスのことは気に入っているのだ。 ホムンクルスの給料のキラキラというのは彼らが呼んでいるだけで、わたしたち人間からの名称はお菓子、である。見た目も考え方も堅そうな彼はお菓子作りが趣味というのだから、思わず吹き出しそうになってしまうけれど、彼の腕は本物だ。わたしもよく貰っているが、ほっぺたが落ちそうになるほど美味しい。 しかし、最近そんな彼の様子がおかしい。 「ソール?」 「…私の作ったお菓子が負けるはずが、ない」 「ソールってばー」 「…レシピを新しく考案するべきでしょうか」 わたしの言葉なんて耳に入っていないらしい。 彼は分かりにくいが、ホムンクルスをかなり可愛がっている。表情があまり変わらないし、いつでも冷静のように見えるので、みんなからは少し苦手と思われているとも聞く。けれど、ちゃんと話をすれば、彼のことだって分かる。 「そー、」 「名前、なんですか。私はお菓子のレシピで忙しいんです」 「ちょっと待って!?酷くない!?わたしソールのなんなのっ」 書類を机の隅に追いやった彼は、羽ペンを手に取ると材料を羊皮紙に書き出した。わたしの叫びは辺りに煩く響く。支部長が一瞬こっちを睨んだ気がして、背筋が凍る思いだった。あの支部長は何を隠そう、この目の前の彼と親子である。わたしは印象を悪くするわけにはいかないので、口を噤むと深々と礼をした。 「名前」 「は、はい?」 「貴女は私のお菓子に何が足りないと思いますか?」 わたしが彼に求めるものなんて一つしか無い。向こうからアピールしてくれることが少ないのなら、わたしが積極的にアピールしていくしかないと思っている。 「ソールのお菓子には愛が足りないです!」 「…はあ、貴女に聞いたのが間違いでしたね。すみません」 「…ひどい」 けれども、今の状況をよく考えて欲しい。 彼はホムンクルスが自分の元から離れていったり、構ってくれなくなることを危惧して、お菓子作りに専念しようとレシピの考案を行っているのだ。つまりは寂しいということ。 そしてわたしと彼の置かれた立場も非常に似通っているではないか。わたしは素直に寂しいと思っている。彼が忙しい身であることは知っているし、迷惑を余りかけないようにしようと努めてはいる。邪魔をすることだけはしたくなかったのだ。 「ねえ、ソール」 「はい?」 「ソールがホムンクルスちゃんに構ってもらえなくて寂しいっていうのは、わたしにも言えるんじゃないの」 吐き出してしまった想いはもう止められない。 一度くらい、彼を困らせても神様は怒らないだろう。支部長には怒られるかもしれないけれど。 「…ふむ」 羽ペンを動かしている手が急に止まった。 彼の冷めたような瞳がわたしを突き抜けるように刺していた。いつもの彼のようで、でも、どこか違和感。すると、彼は小さくわたしを手招きして、正面に来るように指示を手振りで伝えてきた。 意図が掴めないわたしは彼の前に大人しく立つ。すると、仕事中は離席することがあまり無い彼がゆっくりと立ち上がった。 不思議な香りが立ち込めた。 あれ。ソールってこんな匂いがしたかな。 「はい。貴女も満足でしょう」 わたしは咄嗟に振り返ると、扉に向かって猪突猛進。 彼もなんてことをしてくれたのだ。これが支部長に見られていたら大目玉である。けれども、計算高い彼のことだ。きっと支部長に見えない角度でそういうことに及んだのだと思う。 って、そうじゃなくて。 「…もう!ソールのばかー!!」 「ソール?ソール?」 「きゅうりょう、くれる、ソール」 「きゅうりょう!」 広場で叫んだわたしの周りにホムンクルスが集まってきたので、一緒に写真を撮って、彼に送りつけてやった。どう、羨ましいでしょう?と。 写真に写ったわたしの顔が真っ赤なことについては触れないよ。 Title:イーハトーヴ |