触れ合う熱と熱。意中の相手だったからこそ、体は燃えるように熱い。恋に熱されたこの体を、心を誰かどうにかして欲しいと思うばかりだ。 出会った頃には小さかった火であったのに、大きくなるように燃える物をちょっとずつ投げ入れていった結果。 「…い、いつになったら離れてくれるんだ?」 「クロムさんがわたしのこと好きだって言ってくれたから、そのお返しが出来るまでです!」 名前は俺の想いを真っ向から受け止めてくれ、それを今返そうとしているらしい。一緒に居る時間を手に入れたのだから、少しずつで良いというのに。 別に離れて欲しいわけではないが、あまりこう長い時間これをされると今まで蓋をしていた感情が堰をきって溢れ出すようで何を仕出かすか分からない。自分は、俺は、一体彼女に何をするつもりなのだろう。何かは確信が持てずわからず仕舞いだが、理性で押さえて込んでいた。それだけは絶対にしてはならないと。 「時間をかけてで良いから…な、」 「好きです!クロムさん大好きです!」 「…っ」 箍が外れそうというのはこの事を指すのだろう。決して彼女を傷つけるつもりなどは無いのだが、別に感情がひとつ。 名前の、見たことの無い姿を見たい。恋人になった俺にしか見せる、魅せることしか出来ない姿を。その姿になったとき、どんな表情で俺を見て、どんな声で俺を呼んで、どんな気持ちで俺に抱かれるのだろう。 ちょ、ちょっと待て。今、俺は…名前をどうすると。 「…抱き、」 「なんですか?」 「だ、抱きしめたい!」 「変なクロムさん。今抱きしめてるじゃないですか?」 熱い抱擁を嬉しく思う。 でも本能は抱擁ではないものを求めていた。どうして気がついてしまったのだろう。そして、気づいた瞬間から彼女の何もかもに敏感に反応してしまうようになったのだ。 「もう、十分だよな…!?」 「急に慌てたり赤くなったり忙しいですね。どうかしました?」 「お、お前だってな!赤いだろ!?」 大声を張り上げながら、俺は名前を剥ぐように離した。 彼女は不思議そうにきょとんとした顔でこちらを見ている。 俺の中の葛藤なんて微塵も知らないのだ。意識を始めると、乱れてもいない息遣いや大して色っぽくもない吐息が全部艶やかなものに聞こえる。俺の頭はもう不埒なことしか考えられない。この頭の中を彼女に覗かれたらもう世界の終焉を待つしかないくらいだ。勿論、これまでにも変な浮ついた気持ちになったことはあったが、ここまではなかった。今回ばかりは重症である。 嗚呼、彼女に顔向けが出来ない。俺は見ることが出来ない。下を向いたままでいると、彼女が身じろぎをした。肩を揺らして反応する俺は本当にただの変質者にしか映らないだろう。晴れて恋人同士となったのに、幸先悪いスタートを切ったものだ。 「どうして下を向くのですか?」 「お前を、見れないからだ」 「…わたしはクロムさんの顔見たいですけど、」 名前はなんて優しいのだろう。その一言で俺はなんだか救われたような気持ちになって、おずおずと顔を上げる。そこには笑った顔の彼女。 「…ごめん」 「謝ることなんてないでしょう?」 「いや…俺の事情を知らないから、そんなことを言えるんだ」 「事情?」 墓穴を掘った。 時すでに遅し。 「…あっ、いや、」 「事情ってなんですか?もうわたしたちの間に隠し事なんてしないって言ったじゃないですか」 「…い、いや、こ、これはだな…男の事情ってやつで、」 「?」 「ああもう!言うよ!言ってやるからな!覚悟するんだな!」 「変なクロムさん」 大きく深呼吸。 追いつめられたのだから、男としてはっきり言ってやろう。元はと言えば、この状況を作り出してしまった自分が悪いのだから、言うしかない。 「…言うぞ?」 「はい」 満面の笑みで返事をしたが、俺が今から発する言葉はその雰囲気の中で言うものではない。ただ、彼女にはきちんと伝えないと分かってもらえないだろうから。 「…名前を、」 「はい?」 「だ、抱きたい」 呆然とした彼女。 刹那、平手打ちが飛んできた。当たり前だと言われるかもしれないが、何も理解していない彼女に伝えるためにはストレートな言葉で表現しなくてはならない。確かに真っ直ぐな言葉でなくとも遠まわしに伝える手段もあったかもしれないが、それでは鈍感の名前は気づかないのだ。 「く、クロムさん…」 でも。それだけお前を愛しているということなのだ。分かって欲しい。 |