冷たき鋭い瞳とわたしの瞳が交わったかと思えば、体が浮いた。驚愕してパニックになったわたしはバタバタと手足を振り回して暴れてみる。精一杯の抵抗のつもりだ。それでも全く効果はなく、何処かへ連れて行かれる。わたしを抱えた彼の表情を観察してみるとどこか焦ったようなもので、今までに見たことのないそれに心がざわめいた。 「…あの!ガイアさんっ!!」 「少しは大人しく、静かにしとけ」 最初に受けた印象の瞳に劣らない冷たい声。 ただ、わたしは知っている。彼は基本こんな人で、冷たいと思われがちなだけ。言われた通り、じっと運ばれるのを耐え、口も開かなかった。 「…なあ、」 辿り着いたのは彼の部屋と指定されたところ。部屋の中で一番主張している、ふわふわしているベッド。 そこでわたしの見ている世界は目まぐるしく変わった。 見えるのは微笑の彼。相変わらずポケットにはお菓子が詰まっている。一体どこまで甘党なのだろうか。ちょっぴり可愛いなと思ったけれど、今はそんな場合ではない。身の危険が迫っているのだ。 「…突然、ごめんな」 「えっ?」 「お前を連れていって、こうしたくなったんだよ」 覆い被さる彼の頬がほんのり赤い。自分でやったくせに恥ずかしがっているようだ。 そんな表情を見せられたわたしの方が数倍恥ずかしいというのに。 「飴。食うか?」 赤い頬をしていたのにいつの間にか余裕綽々の雰囲気を醸し出す。彼が少し妬ましい。素直に恥ずかしい素振りをして欲しいものだ。 わたしが頷くと、飴の袋を器用に開けて、中身を自分の口に放り込んだのである。 「あっ、飴が!」 「俺が甘いの好きなの知ってるだろ?名前に菓子譲って堪るか」 「…なら聞かないでよ。意地悪」 「…冗談だよ。俺が勝手に連れてきたんだ、それくらいは聞いてやるさ」 近づく顔。 反射的にわたしは目を閉じる。 「馬鹿だな、名前」 そう言葉が聞こえて、言い返そうと口を開けようした瞬間に彼のくちびるがわたしのそれを塞いでしまった。びっくりして、キュッと結んでしまったくちびるに彼の生温かなものと飴がトントン、とノックする。その上、肩を抱かれてわたしはもう逃げられない状態。飴を押し込む力に負けて、わたしの口の中には彼の口から移された飴が転がり込んできた。 「俺の飴、美味しくないとは言わせない」 一連の流れがあまりにも恥ずかしいことだらけだったので、わたしは何も言えずに飴を舐めていた。 再度、彼の顔が近づいたので先程と同じく目を閉じるが、彼のくちびるはいつまでもやってこない。 「無自覚って怖いな。それが誘ってるって分かってねえだろ?」 「…っ、そんなつもりは!」 「ん?別にお前が誘ってなくても、俺はその、つもり、だけどな…」 「さ、最後までかっこつけて欲しかったな…いつものガイアさんじゃないから、びっくりしてるけど」 徐々に小さくなっていく声にわたしは笑った。 「…じゃあ、遠慮なく襲うかな」 いつから狼のような男の人になってしまったのだろう。 三回目。 また、彼の顔が近づいてくる。獲物に噛みつくような顔をして。 |