布団の中ってなんて気持ちが良いのだろう。一回入ってしまえば、わたしを離してくれない。ぽかぽか温かくて落ち着く、そんな場所から飛び出そうなんて気には全くならないのだ。これはわたしが朝起きられない原因の一つに直結しているのだけれど。 「……もう眠い、このまま寝ちゃおうかな」 日曜日は一週間の一番の至福の時。学校も部活もない、自由な時間。勿論、明日からまた学校が始まると思うと憂鬱になるけれど、そんなことはいちいち気にしていられない。今を楽しむことが大切だと思う。 布団から少しだけ顔を覗かせて、扉をじっと見つめてみる。びくとも動かない扉を暫く見て、天井を見上げた。そう、ここはわたしの部屋じゃない。部屋がスッキリしすぎているもの。 ああ、もうなんだか瞼が重い。眠りの国からお迎えが来たようだから、抗うことはしない。使いの者に手を引かれたような気がして、わたしは瞳を閉じた。 「ごめんっ、遅くなった!」 影山から連絡があったため、急に用事が出来た俺は外へひとっ走りしてきたのだった。彼女が遊びに来ているというのに、放置という形をとったのである。影山がもしかして今彼女さん来てたんスか、と気を利かせたように言ってきたが、それは連絡を寄こしたときに聞いて欲しいものだ。彼女を放っている今この時に変に気を使われても、こちらとしては聊か対応しにくい。必死に謝る影山に対して、苦笑するしかなかった。 「……名前?」 部屋をぐるりと見渡す。俺の部屋の物は触れられていないのだろう、全く位置が変わっていなかった。むしろ、この部屋に誰もいないよう。形跡が一切ないのだ。 けれど、確実に彼女をこの部屋へ連れてきた。間違いない。 そっと自分の手を見つめた。ついさっき、この手で彼女の手を引いて連れて来たのである。手に触れるのは初めてではないけれど、緊張した。触られている彼女がどう思うかな、と内心ドキドキである。手が湿っていたらどうしようとか、カサカサしていたらどうしようとか手を気にする女の子の気持ちが少しわかったような気がする。俺もハンドクリームとか使った方がいいかな。 見回したとき、ある一点だけ妙に違和感。俺がいつも使っている、憩いの場所。布団が盛り上がっているような気がする。 「名前?」 布団をちょんちょんと突くが、反応はない。そういえば、彼女は朝起きるのが非常に苦手だと言っていたし、これはぐっすりと眠ってしまっているパターンではないだろうか。起こしたところで、何か攻撃されそうだ。寝起きが悪そうなイメージを勝手に持っているけれど、それを本人に告げたら、きっと怒られるだろう。 でも、このままでは折角の休日が無駄になってしまう。 「起きて」 「……ん」 なるべく大きな刺激は与えず、目覚めてくれるように願いながら肩を揺らしたところ、奇跡的に二回目で反応が返ってきた。ひとまず安心した俺は声をかける。 「おはよ」 「ん」 「ごめん」 「……こ、うし?」 吃驚した。 普段は孝支くんって呼ぶくせに、不意打ち過ぎて俺の口から次の言葉が出てこなかった。今、彼女はさらりと呼び捨てをしたのである。恥ずかしいから、と今まで頼んでもしてくれなかったのに。 「……うん」 「こうしっ」 「あの、えっ!?」 ぐいっと引っ張られた腕。 あまりにも急で反応も遅れ、体に力を入れる前に彼女に引き寄せられていた。布団に倒れ込むようにダイブする形になり、彼女を下敷きにしてしまう。 「ごめっ……!」 「孝支、ちゅーするね」 「は!?」 誰か彼女にお酒でも飲ませたのか。俺からすれば、彼女は豹変したようにしか思えなかった。布団がふわっと浮いたかと思えば、それは少し離れた場所に投げ捨てられていて。ちゅ、と音がしたと同時にくちびるが一瞬で熱くなった。 初めての彼女とのキスがこんな形になるなんて誰が想像出来ただろうか。俺だって、いろいろ考えてタイミングを計っていたのに、いとも簡単に奪われて。男として、悔しい。 「えへへ、孝支とちゅーした」 「……名前」 「なに?」 「今日、何しにここに来たんだっけ?」 あっ、と口を開いた彼女は呆然していた。やっと覚醒したのだろうか。コロコロ変わる彼女の表情を見ていると、男のプライドを少し傷つけられたことを水に流してしまいそうになる。 でも、今日はこのまま終わらない。 だって、俺はまたひとつ大人になったのだから。 「お誕生日おめでとう、孝支くん」 「うん、ありがとう、名前。じゃあ、いただくよ」 このまま、終わらない。俺は男だから。 投げ飛ばされた布団を取りに行き、元の位置に戻した。そして起き上がっていた彼女を素早く布団の中に引きずり込む。先程と全く逆である。部屋に布団に飛び込んだ音と彼女の小さな悲鳴が響いた。今の俺にとって彼女の声なんて、もう誘っている要因のひとつだけれど。 「孝支くん……!?」 「名前を今からさ」 「ひゃ」 耳元に吹きかけるように喋りかけてやると面白いくらいに反応をする。朱が差した頬だって、それは俺に食べられてもいいよってメッセージと受け取るからね。 「……食べちゃうから」 |