*社会人設定



わたしは目まぐるしく変わる仕事に追われていた。この職場に来てから、色々と仕事をこなしてきたけれど、要領良く出来ないわたしはなかなか成長しない。先輩にも一生懸命なのは良いけれど、効率良く出来るようにと言われ続けていた。
そんな中、一件のメールが届いた。高校時代バレーボールのマネージャーをわたしはしていたのだが、そのメールの差出人はそのときの部長であった。
高校時代は片想いを募らせ続け、実を結ぶことなく終わってしまっていた。その相手が大地くん。突然のメールに昔の気持ちが心の宝石箱から溢れだす。大地くんからのメールが鍵だったようで、わたしは高校生に戻った気分だ。バレーをしている、あの凛々しい姿。コート上でみんなを纏めあげるリーダー性。全てがわたしにとってストライクだった。
「時間あるか、このあと」と画面に並ぶ文字。わたしは運良く明日が休みだった。少々遅くなっても構わない。時間あるよ、と一言返すと、物凄い早さで返事が来る。場所の提示だけが、メールの一面に記されていた。







「久しぶりだな」
「大地くんいきなりでびっくりしたよ」
「すまん。どうしても伝えたいことがあってさ」



開口一番、挨拶を交わしたと思えば直ぐに本題に入るようだった。急な用事だろうか。
大地くんが焦っているのが良く分かる。珍しい姿だな、なんて思っていると、大地くんがわたしの名前を呼んだ。



「質問に答えて欲しい」



それならメールで十分じゃないかな、なんて思ったけれど、跡を残したくない質問の内容なのかもしれないと考え直して、大きく頷いた。重要機密事項なのだろうか。



「1つ目、今付き合っている人はいますか?」
「えっ!?」

余りにも突飛な質問で、わたしは変な声を上げた。仕事関係の線が一番強いかなと思っていたのに、全くと言って良い程違うのである。個人的な質問だし、わたしのプライベートに大きく踏み込んできている。
変な期待をしちゃうじゃない。



「答えたくなかったら、スルーして構わないから」
「……いま、せん」



男の人はたくさんいるし、それなりに会社の付き合いにも出ているけれど、ストライクな人には出会っていなかった。大地くん以外には。
もうこれからも大地くん以外にそんな人は現れない気がしているから、お付き合いだなんて、と女の幸せの1つの形は諦めて捨てようとしていたところだ。
表情ひとつ変えずに大地くんは口を開く。



「2つ目、気になっている人はいますか?」



これは当てはまるのだろうか。
久しぶりに会って、気持ちを思い出したのだが、今もその気持ちになれるってことは。



「はい」
「3つ目、結婚願望はありますか?」



先程も言ったけれど、女としての幸せなんて当に消したつもりである。



「いいえ」



大地くんの顔が歪むのが分かった。唇を強く噛んでいるよう。わたしの結婚願望への答えがそんなに期待外れだったのだろうか。ちょっぴり罪悪感を感じたわたしは口を開く。



「良い人が!いないから」



大地くんはフォローに回ったわたしを直視したまま動かない。



「……じゃあ結婚は悪くないということでいいのか?」
「そう、かな」



呟かれた言葉は何時になく覇気がなかった。返答したわたしも曖昧な言葉。はっきりと言い切ることが躊躇われたのである。結婚することが嫌なわけじゃないし、寧ろ憧れを持っていたりする。だけど、その結婚には条件がある。
相手、だ。結婚願望が湧かないのは自分が良いと思った人が手に届かない場所にいるからだろう。大地くんはこんな質問を続けてどうしたいのか。



「最後の質問」
「はい」
「澤村大地と、」



自分の名前を大地くんは出した。最後の質問ということで少しホッとしたわたしは彼の言葉を待つ。



「澤村大地と、結婚出来ますか?」



息を呑んだ。
彼は今、自分と結婚出来るかとわたしに尋ねたのだ。最初から個人的な質問だったということ。
ねえ、これって。
頭も気持ちも追いついていかない。幸せを一度は諦めて、もうそろそろ吹っ切らないと思っていたのに。こんな形で想起させられ、悩ませられる。わたしは確かに大地くんが好き。昔も今も変わらず。この気持ちを優先して良いのだろうか。暫く離れて居たのに、すんなり一緒になっていいのか。寄り添う二対の鳥のように仲睦まじく、なんて夢見てもいいの。



「答えは」
「……大地くん、わたし、」
「うん」
「わ、わたし、前から!高校のときから大地くんのこと」
「うん」
「……好き」
「もう一回質問させて。澤村大地と、結婚出来ますか、いや、結婚してくれませんか?」



涙がとめどなく溢れ出す。
大地くんは初めから、プロポーズするつもりでわたしを呼び出したのだ。メールで済ますことが出来るわけがない。きっと彼にとっては一世一代の大勝負なのだから。嗚咽が止まらないわたしがこくりと頷くと、大地くんにぎゅっと抱きしめられた。彼の震えがわたしにダイレクトに伝わってくる。



「良かった……断られなくて」
「……っ、う、」
「ずっと言いたかったのに、言えなくてごめん。断られると思うと怖くてさ」
「……っ、うれし、」
「俺も」



寿退社かな、わたし。


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