グループを率いるように先頭を歩くルークさんの髪の毛がそよ風で揺れる。わたしは知らないけれど、彼の髪の毛は今でこそ短いが、少し前までは長かったとティアさんが教えてくれた。ルークさんのことを語るティアさんの口元は綻んでいて、それを指摘したらきっと否定されるのだろうな、なんて思いながら聞いた夜。日付を越えようかという頃、久しぶりに彼らのパーティがわたしたちの街を訪ねてきてくれたのだった。庭にある小さな灯を消して、そろそろ寝ようかと思っていたところにたくさんの足音がしたものだったから、最初は怖かった。けれども、目を凝らして見るとアニスちゃんが手をぶんぶんと振り回していて、わたしはほっと一息つく。この街の中では裕福な家庭に生まれたわたしは、すぐに彼らのために部屋を用意した。最初に彼らが訪ねてきてくれた時、わたしのお父様が命の危機に瀕していたのだけれど、それを救ってもらったのである。命の恩人。お母様にルークさんたちが来たことを伝えると、既に就寝準備に入っていたのにも関わらず、彼らをもてなすために用意を始めた様子を見て、わたしは小さく笑う。お母様もお父様も、そして娘であるわたしも大変感謝しているのである。
そして、今は女性方にわたしの家でゆっくりしてもらっており、男性三人を連れて街で買い物をしているところだ。ルークさんが買い物用のメモを見ながら、その道具を買うことの出来る店の場所をわたしに聞いてくる。わたしは彼の質問に答えつつも、質問攻めが収まった時に後ろをついてくる二人をチラチラと見ていた。長身の二人は何やら難しい話をしているようで、時折はっきりと聞こえる単語の意味は全く分からない。難しい話題に首を突っ込むことはせずに、盗み見を続ける。あれ、そういえば。今日はみんな服装が違う。見たことのない服だった。
大通りに出たルークさんは足を止めて、目の前を駆け抜けて行った子どもを見て笑った。お父様が最近この辺りに噴水が出来たはずだと言っていたような気がする。どこにあるのだろう。ルークさんの後ろで立ち止まったわたしは辺りをキョロキョロと見渡す。公園を作ろうと街の意向で、まずは目印になる噴水を作ったのだ。
ルークさんに話しかけようとして、口を開いた時に水飛沫が上がったような、そんな音が聞こえた。わたしと彼が振り返ったのはほぼ同時だっただろう。



「噴水はこっちにあったのね」
「…ガイ?」
「ルークさん?」
「噴水に突っ込んでるのはガイじゃないか?」



吹き出すように笑ったルークさんが指摘したのは、先程ジェイドさんと話をずっとしていたガイさんという金髪のお兄さんが噴水に落ちたということである。ガイさんだと断定は出来ないけれど、下半身しか見えていない大人の男性だと考えられる人が子どもたちに囲まれているのが見えた。子どもたちがワイワイと騒ぐ。このお兄ちゃん、噴水で顔洗ってる、だとか、僕がぶつかったから、とか、このお兄さんとってもイケメンだわ、なんて大きな声で話しているのが聞こえた。少し離れた所で私は関係ありませんよ、とばかりにジェイドさんが別の方向を見ながら眼鏡を触っている。
とにかく、水で濡れた男性がいるのは間違いないことなのでわたしは肩から掛けていた鞄の中に手を入れて、タオルを探す。いつもはハンカチを持っているのだけれど、今日は偶然にも大きめのタオルを持っていた。ここのところ続く雨のおかげで、お気に入りのハンカチの洗濯が追いついていないのである。
子どもたちから歓声が上がったのが聞こえて、手に取ったタオルから噴水の方へと視線を移す。ルークさんが一足先に駆けつけていたようで、噴水で上半身が濡れてしまっている男性の身体を起こしていた。昨日まで酷い雨が続いていたというのに、今日は打って変わったように快晴である。強い日の光を浴びた金髪が眩しい程に光る。わたしは噴水に近づくために動かしていた足を止めた。ルークさんの予想通り、水浴びをしたように噴水の犠牲になっていたのはガイさんで、彼は髪についていた雫を振り払う。それでも髪の毛に残っていた水の粒は額を滑り落ち、街の広場の地面を変色させた。ぽたり、ぽたり、落ちていく。水も滴るいい男という言葉がこれほどまでに似合う男性だったなんて。止まった足を再度動かす。自分の足音よりも、心音の方が大きく聞こえて集中できない。



「名前さん!タオル持ってたのか。ガイを頼むよ」



腕を伸ばしても濡れた服や髪、顔をタオルで拭いてあげられるような距離に、まだわたしはいなかった。わたしに気づいたルークさんが、よろしくとばかりにガイさんへの道を作る。もう一歩踏み出そうとした時、上着を脱ごうとしているガイさんと目が合って、踏み出しかけていた足は元の位置に戻った。濡れた上着は身体を冷やしてしまうので、風邪を引いてしまうかもしれない。もしかしたら頑丈な身体でそんなことは頭にないのかもしれないけれど。
とにかく、今わたしの目の前で上着を脱がないで欲しかった。袖から片腕を抜こうとしたガイさんは固まったままで、わたしも同じような状況。



「ガイさん!脱いじゃ、ダメです!」
「ま、待て、キミもそこから動かないでくれよ?」



わたしとガイさんの間を通り過ぎて行くのは先程まで完全に傍観者に成り果てていたジェイドさんだった。そのままルークさんの隣に立つと、わたしとガイさん両方に目配せをする。彼が何を伝えようとしているのか意図を掴めないままでいると、やれやれとばかりに両手を上げて首を振った。片腕を抜きかけたガイさんも、タオルを持ったままのわたしも子どもたちから見れば、大層変な姿だろう。子どもたちの賑やかな笑い声に包まれて、ジェイドさんは言葉を紡いだ。ルークさんも呆れたように白い目である。



「ルーク、このままだと埒が開きません。ほら早く、ガイにタオルを渡して来なさい」
「俺も今、そうしようと思ってたよ」



わたしの手からひょいっと奪われたタオルはルークさんによって、ガイさんの元へ運ばれていく。わたしが動くこともなければ、ガイさんが上着を脱ぐこともなかった。ふわふわと柔らかかったタオルが勢いよく吸水すると、重さを変えてわたしの元に戻ってきたのは家に帰ってからだった。


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