*DQH設定 決戦の時が刻一刻と迫って来ていた。本来この世界の住人ではない人間たちも含め、アクトをリーダーとし、挑むべき最凶の悪をそれぞれが思い浮かべていた。無情にも過ぎ行く時間を時計の針や空が彼らに伝えている。世界を違えど、この世界を守りたいという気持ちは、そこに集まる全ての人間が抱いている気持ちに間違いなかった。テリーも勿論その中のひとりであり、自室の窓際に背を預けて日の沈む空を横目で見ながら、剣を磨いている。異世界へ飛ばされたことに気がついた当初は以前からの不器用さが相まったゆえに、仲間たちの中に上手く溶け込むことができずにいたものの、今ではテリーの性格を知った仲間たちが支えてくれているのだ。相変わらず、外から見ればただの冷たい男にしか見えないのだが、彼の内に秘めている熱さと優しさを一緒に過ごしてきた人のみが知っている。テリーにとってはそれだけで充分だった。全ての人間にとって、テリーという人間の存在が良いものであると思ってもらわなくともよい。身近にいる者だけが理解を示してくれたのならば、それ以上望むことなどないのだ。日の沈んだ外は妙に静かで、気味が悪いくらいである。剣を鞘に戻したテリーは手に持っていた布を近くのテーブルの上に乱暴に放り投げると、窓をゆっくりと閉めた。遠くからやってくる夜の色は明瞭には見えず、雲で覆われてしまっている。晴れないその様子はまるで、今の自分たちの気持ちを表したかのようだとテリーは唇を歪めた。いっそ、闇色に覆われてしまった方が本当の絶望を味わうことができるかもしれない。しかし、少しでも希望を持っている人間が集う、空艦バトシエから見える景色は今の状態がぴったりなのだろう、そう思い直してテリーはカーテンを引く。自分だって希望を持って戦うのだ。元の世界へ戻るためにも。 コンコン、と控えめなノック音がテリーの耳に届く。いるぞ、と小さな声で返した彼はカーテンに背を向け、ベッドの上に腰を下ろす。星が煌くような銀色の髪の毛がその衝動で揺れた。いつもはターバンで頭を覆っているのだが、自室にいる際はそれさえも外してしまう。そんなテリーの自室を訪れたのは、元々この世界の者である名前であった。アクトやメーアと共に旅をする決意をした彼女は、持ち前の粘り強さで彼らを支えている。回復魔法を主に使いつつ補助魔法もいくつか使えるために、後衛タイプだ。前線で戦うのがそれほど得意なわけではないことも理由の一つとして挙げられるだろう。つまり、テリーとは真逆であった。そんな二人の共通点は魔物好きということである。ひょんなことから、テリーが魔物使いとしての能力を遺憾なく発揮した際に、彼女はこっそりテリーに魔物たちが好きなのか尋ねたことがあった。彼は周りの目を気にしながらも、名前を見つめた後にちょっぴりと頷いたのである。その控えめな仕草を彼女は可愛いと思ったが、何よりもこの剣士も自分と同じく、魔物たちが好きだというのだ。凶暴化したために今は一緒に過ごすことが難しくなってしまっているが、この世界の平和を取り戻したのなら、また一緒に暮らせる日がやってくるはず。そう願い続ける名前にとって、魔物を大切に思ってくれる別世界の人間がいることは、飛び上がる程嬉しいものであった。その事実が発覚したあと、延々と魔物の名前を並べては特徴を挙げ、彼女は好きなところを次々と口にする。テリーは最初の方こそ面倒だと感じていたが、あまりにも名前が楽しそうに話すものだから、途中で話を切ることなどできなかった。そして、自分もどこか楽しんでいることに気づいてしまったのである。ポーカーフェイスが少しだけ崩れていたのを名前は見逃さなかった。 「テリー、この子」 「……ドラゴンキッズか」 テリーの部屋へやって来た名前の腕に抱かれていたのはか細い鳴き声をあげるドラゴンキッズであった。その瞳に殺意はなく、彼女に自分の命を預けているように見える。名前が応急処置を施したようで、ところどころ治りかけている傷も見受けられた。テリーはドラゴンキッズを注意深く観察したあと、どうして彼女が自分のところへ連れて来たのかを考え始める。自分に手伝って欲しいことでもあったのだろうか。それにしては、名前の処置が完璧すぎるために自分が手助けするようなことはない。天井を見上げるテリーを見た彼女はクスクスと笑いだした。 「ふふ、テリーに見せてあげようと思っただけよ」 「は?」 「だってほら、テリーは魔物のこと好きって言っていたから」 「……わざわざ見せに来たのか」 「嬉しいでしょう?」 テリーの座っている横になんの躊躇いもなく、腰を下ろした名前はドラゴンキッズの頭を愛おしそうに撫でる。テリーはおでこに掛かっていた前髪を掻き上げるようにして、頭を抱えたのだった。この女は男の部屋に来て、無防備にもベッドに座るのかと。そんなテリーの気持ちなど知りもしない名前は、だんだんと元気を取り戻しつつあるドラゴンキッズと見つめ合いを始めた。自分の姿がドラゴンキッズの大きな瞳に映っている。本当に自分の姿を見てくれているのか、魔物の言葉が分かるわけではないので確かめようもなかったが、無言の視線が訴えかけてくるものを受け取ることはできた。ボクはキミのことを見ているよ、そんなメッセージじゃないのかな、と自分の願望も交えつつ。魔物と言葉を交わせたのなら、どんなに良かったことだろう。そうしていると、膝に乗せていたドラゴンキッズがふっと消えた。え、と名前が零した言葉に笑ったのはテリーである。 「もう元気なんだろ?オレには分かる」 「そ、そうなの?」 テリーの言葉を理解しているかのようにパタパタと小さな羽を動かして、鳴き声をあげたドラゴンキッズは彼の膝に移動させられていた。名前の気を引くためにわざと弱々しい姿を見せていたことをテリーは見抜いていたのである。女の気を引く技を知っていることを自慢したいドラゴンキッズは彼に向かって、勝ち誇ったような姿を見せた。名前はボクの物なんだよ、そう言いたげに。 テリーは別段、隣にいる彼女のことを自分の物にしようだなんて一度も思ったことはなかった。むしろ、傍に置いておくというのは興味がないことであり、そんな感情すら抱いたことがない。同時に、一緒にいることが居心地悪いと感じたことはなかった。近くにいてくれることで自分は落ち着ける、そんなことを思ったことはある。テリーの膝を下りたドラゴンキッズは傍にあった枕に軽く噛み付くと、そのまま身体を回転させて遊び始めた。 「なあんだ、すごく心配したのに」 「お前の気を引きたかっただけだろ」 「……直接甘えてくれたらよかったのに」 横目でドラゴンキッズの様子を確認した名前は安心したように笑った。そんな彼女の姿を見たテリーは、大きな溜め息をひとつ吐く。彼女の言葉に一つ気づかされたことがあるからである。感情を露わにすることが少ないテリーは、よく何を考えているのか分からないと名前にも言われたことがあった。もう慣れてしまったことである上に、自分が感情表現を必要と考えていないため、特に気にしていない。いつもであれば姿を見せてもおかしくない時間だというのに、カーテンの隙間から差し込んでくる月光はいつまでも顔を見せない。それに加えて、星もひとつとして姿を見せないままだった。やはり、テリーが見た日没時の雲が完全に月や星を覆ってしまったのだろう。名前との距離を詰めた彼は、無言で彼女の小さな肩に自身の頭をそっと乗せるのだった。 DQ夢企画サイト「わたしの英雄」様へ提出 |