自分の見知った背中を見つけたとき、自然と足が動き出した。背番号がキラキラと光って見えたわたしは、大きく7と書かれたその背中に向かって声をあげる。わたしの声にくるりと振り返ったのは水樹ではなく、隣を歩く別の背番号の男子だった。水樹はその数秒遅れて振り向く。さらり、と流れるように揺れる髪を見た瞬間に、この人は水樹と全く違う人種だと思った。水樹が髪のセットを丁寧にしている場面なんて、幼馴染のわたしでも見たことがない。朝起きて、適当にくしを動かしながら、大あくびをする水樹しか知らない。雑なセットなものだから、変な寝癖がついていて、周りの友だちからよく笑われていた。笑われた理由が分からずじまいの水樹は首を傾げるだけ。もしかしたら、今でもそうかもしれないけれど。



「知り合いか?」
「ああ、名前だ」
「お前に下の名前で呼ぶような女の子がいたんだな」
「……えっと」
「臼井だ。臼井雄太。名前、ちゃん?」
「苗字だ。苗字名前」
「じゃあ、苗字さん」



水樹は勝手にわたしのことを紹介した上に、臼井くんの呼び方まで定着させてしまった。臼井くんは水樹とわたしのことを交互に見ながら、くすりと笑う。初対面なのは間違いないのに、どこか心を見透かされたような気がして、背中がぞくりと震える。臼井くんが何かを言ったわけでもないのに、全てを察したような、そんな感じだろうか。水樹とわたしの間の呼び方の違いだけしか、彼には分かる情報として提供されていないのに。よろしく、と細められた瞳は、なんともモテそうな雰囲気を醸し出していたものの、わたしは一種の恐怖を感じていた。



「苗字さんは水樹と幼馴染か」
「う、うん」
「ふうん。ただの、幼馴染?」



水樹は相変わらず、能天気に辺りをキョロキョロ見渡していたけれど、口元を緩めて意味深に質問を投げかけてくる臼井くんはわたしから目を逸らさない。水樹は、わたしのことをただの幼馴染であると思っているはずだが、臼井くんが指摘してきた通り、わたしから見た水樹はただの幼馴染じゃなかった。きっと、さっきのやり取りだけで臼井くんはわたしの想いの違いを見抜いてしまったのだろうと思う。同学年の男子なのに、非常に大人びて見える臼井くんから目を逸らしたのはわたしで、それは返答していないとしても、彼にとっては答えを与えられたことと同じらしく、臼井くんはクスクスと笑う。もう、臼井くんは分かってしまったのだろうか。恋愛経験も豊富そうに見えるし、そういう話には慣れているように見えた。



「まだ、幼馴染ってところか」



言葉に詰まっているわたしだけに聞こえるように、臼井くんはわたしとの距離を詰めてそう呟いた。顔を上げれば、水樹の姿は全く見えず、視界は臼井くんでいっぱい。思わず後ずさりしようとすると、臼井くんに腕を掴まれて動くことは叶わなかった。水樹にこの想いを知られたくないとは思っていたけれど、目の前の臼井くんにも知られたくなかったと思ったが、もう遅い。わたしの想いなんて知っているのは指折り数えるくらいだ。相談相手ができたと言えば、そうなのだけれど、今日会ったばかりの人に相談するなんて。それに臼井くんは結構鋭いところを指摘しそう。



「苗字さん、水樹のこと」
「臼井くん!」
「難しいと思うだろ?でも、言葉にすれば、案外簡単なものだったりする」
「絶対言わないで」
「分かっているよ。苗字さんが自分で言うことに意味があるからな」



腕を解放してくれた臼井くんは三歩下がる。水樹の背中をトントンと叩きながら、わたしと話を交わすので、いくら水樹でも察してしまうのではないかとヒヤヒヤしたけれど、何も分かっていないような顔の水樹がいたので安心した。筋金入りの鈍さには感心するくらいで、小さく息を吐く。水樹が鈍感でいてくれたからこそ、今のわたしたちは何も変わらずにただの幼馴染をやれているのかもしれないのだ。わたしはただの、幼馴染を演じることで繕っているけれど。



「水樹、どうする?」
「ん、名前送っていく」
「そうだな。じゃあ、俺はこれで」
「名前、臼井と仲良かったの?」
「だっ、だから、今日初対面だってば」
「そうだった」

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