僕らに降る幾億の星
道具袋をひっくり返して、中身を並べていく。やくそうが多すぎるかも、なんて一人で笑う。回復呪文を使えば解決だけれど、もしもの事態を想定して、ミレーユがやくそうを必ず持っておくようにと言っていた。わたしは彼女の言葉をきっちり守って、道具袋の中にやくそうを大量に詰め込んでいたのだ。それから、毒やマヒを治す効果を持っているものも。
ふと、焚き火で照らされる地面に影が落ちる。隣に人の気配を感じたわたしは、立ったままの人物を見上げた。剣を収めた鞘を下ろした彼は、わたしと目が合うと、ほんの少しだけ微笑んだ。
「今はわたしの当番だよ」
「……ああ」
「テリーは身体を休めて」
目が覚めたんだから関係ない、そう呟いたテリーはわたしの隣に座り込んだ。先程まで横になっていたのは本当だろう。銀色の髪が、不恰好だった。わたしが彼の乱れた髪の毛を見ていたことに気づいたのか、テリーは髪の毛を自身の手で触る。クスクスと笑っていると、肘で軽く小突かれた。わたしは整頓し終わった道具を袋の中に詰めて、両腕をぐっと伸ばす。火の番はもうすぐ、交代のはずだ。
「次は、誰だっけ」
「ねえさん、だ」
「ミレーユかあ」
じゃあ、テリーも早く寝るんだよ、わたしは彼の背中を軽く叩こうと手を伸ばしたが、それは背中へ辿り着く前に彼に掬い取られてしまう。手袋を外しているために、熱が直接伝わってくる。いつもは手袋で分からない、テリーの手。引き留められたように勘違いしてしまいそうだった。離して欲しいと言葉にはしなかったけれど、わたしは手を引っ込めようとする。
天馬の嘶きが響く。突然の大きな音にビクリと身体を震わせた瞬間に、わたしの手はテリーの方へと引っ張られたのが分かった。天馬のおかげで、全身から力が抜けてしまっていたわたしはいとも容易く、引き寄せられてしまうのだった。抵抗する間も与えてはくれなかった。まるで、わたしは逃げられない状況にいるのだと。天馬はテリーの味方らしい。
「まだ、ねえさんは寝ている」
「う、うん……」
ミレーユが寝ていることはわたしも分かっている。まだ、彼女の気配を近くに感じることはないのだから。魔物がいつ現れても戦闘態勢に入ることができるようにしてはあるが、それでもテリーはいつもよりも随分と恰好を崩していた。もともと軽装の彼だが、着崩しても格好よく見えてしまうのだからずるい人だと思う。捕まえられた手は未だに離されない。顔を上げれば、テリーの顔が思ったよりもすぐ傍にあって、わたしは思わず身体を強張らせた。いっそう、手に力が入ったのはわたしだけではなくて、テリーもらしい。これ以上、近づいたら、くちびるとくちびるがくっついてしまいそうだ。瞳の中が燃えているのは、焚き火のせいだと分かっているけれど、それがなんだか違う意味を持っているようにも思えて仕方ない。橙色と赤色が交じり合う瞳に差す、どこまでも冷静さを感じさせる紫。でも、決して冷たいだけではない瞳であることはわたしたち仲間がよく知っている。
「名前」
「テリー?」
「……ここは冷える」
日中に比べると、確かに夜は空気が冷たく、肌寒い。テリーの言い分は分かるけれど、そこにどうしてわたしが必要なのか。それに、こんなことをしていたらミレーユが来てしまう。
「冷えるから、毛布のあるところへ行こう」
「……目が冴えているんだ」
「なら、毛布を持ってくるから」
「名前、オレは、ここにいて欲しいって言っているんだ……!」
テリーが珍しく声を荒げたものだから、驚いたと同時に彼の口から零れた言葉を頭の中で整頓していく。回りくどい言い方をしていたのは、直接言うことが恥ずかしいからということだろうか。それに、ここにいて欲しいだなんて。テリーが目覚めた時、もし火の番がわたしではなかったら、彼はここへやってこなかったかもしれないのか。たった一言なのに、わたしとテリーにとって大きな意味を持っているようだった。
わたしは何も言わずに彼との距離をほんの少しだけ詰めた。テリーの手は離れていく。わたしが逃げないことを察知したからかもしれない。もう少しで肩が触れそうな距離を保ったまま、わたしは火の中心をじっと見つめた。テリーは何を考えているのだろうか。分かるはずもないのだけれど、ひたすら彼の心の中を考える。隣に座るテリーは、あれから一言も発さない。勢い任せに言ってしまった言葉を後悔しているのかな、そんなことを思いながら横顔を盗み見れば、テリーもこちらを向いていたようで目が合ってしまった。燃えるように全身が熱いのは、火の傍にいるという理由だけでは説明できなくなりはじめていた。
Title:ジャベリン