王都の陥落、レギスの死。帝国の戦艦が向かっていく王都の姿は、荒廃していく過程を見ているようだった。襲いかかる帝国軍を薙ぎ倒して辿りついた丘の上から見えた光景は、ノクトたちの心を打ち砕く。オルティシエ行きの船が出ていないことに重ねるように次々と起こる出来事に、心が追いつかないことも仕方のないことだった。ノクトに連絡を寄こしたコルはそんな彼らに、力を身に付けろという。まずは、王の墓で歴代の王の力を授かれ、と。悲惨な王都の姿を目にし、血の繋がった父の死を受け入れられずにいるノクトは最初こそ怯んだものの、すぐに墓所へと向かうのだった。その瞳は憎悪に濡れていたといっても過言ではない。力任せに魔物を切り裂いていく姿を見た、イグニスとグラディオが彼を支えるように背中を守る。グラディオは時折、彼に言葉を投げかけていた。それは決して優しいものではなかったが、王の運命を背負うノクトを前に進ませるには充分だった。イグニスはグラディオのように声を荒げることはないものの、冷静さを欠くことのない姿勢は彼を支えていた。
そんな中、三人に必死についていこうとするプロンプトは、旅に集中できずにいた。王都が襲撃されたということは、とプロンプトの頭から彼女の姿が離れない。つい昨日、彼女を夢の中とはいえ、見ていたのだ。最悪の事態も充分考えられるほどの状況は彼を一層苦しめる。コルに言われた墓所のある遺跡に入る前の休息で、何度も何度も携帯を握った。画面を開いて、連絡先までディスプレイに映し出したのだが、あと一歩の勇気が出ない。自分は、人間の死というものに真っ向から立ち向かうことができない。もう、彼女とは関係を絶ったのだ。プロンプト自身がその関係に幕を下ろしたのにも関わらず、こんなにも引き摺って集中を乱している。旅を続ける中で迷惑をかけることを避けたい彼だったが、ナマエの安否が気になって仕方がない。震える手から、携帯が落ちる。岩に当たって音を立てると、一斉に三人がプロンプトの方を向いた。



「ゴメン、落とした」
「気ぃつけろよ」
「壊れてもすぐに修理できないからな」



淡々と注意を済ませたイグニスとグラディオはすぐに各自の作業へと戻ったが、精一杯の作り笑いを睨みつけたノクトが椅子から立ち上がってプロンプトの方へと向かった。その勢いに負けたプロンプトは、彼から逃げるようにして足を何歩か下げる。自分が過去に縋っていることを一番理解しているのは、紛れもなく王子もとい王に間違いないのだ。彼女よりも長い時間を一緒に過ごしてきたノクトに、隠し事など絶対にできない。鋭い瞳は、プロンプトの全てを見透かしたようだ。気づいてくれることは何よりも嬉しいことではあったが、今回ばかりは見逃して欲しいとプロンプトは彼から目を背けた。だが、その瞬間にいつもよりも重たい声が降ってくる。



「プロンプト」
「は、はい」
「気になるなら、ちゃんと連絡を取れ。話せ。そうじゃないなら、きっぱり忘れろ。本当に失くしてからじゃ、遅いんだからな……」



歯を食いしばったノクトの姿は、王としてではなく、プロンプトのよく知るノクトとしての姿だった。自分と同じ歳で大きな運命を背負った彼は、最初の頃こそ身分の違う人間だと思っていたが、学生時代によく一緒にいるようになって、どこにでもいる普通の人間で自分とは何ら変わりのないことが分かった。王として振る舞わなくてはならないノクトは、血縁の死に直面してもいつまでも塞ぎ込んではいられない。前を向いて、胸を張って、生きなければならない。



「……ノクトは強いね」
「あ?」
「ううん、なんでもないよ」



生死が判明したわけではないが、彼女とは繋がりを切ったのだ。いつまでも、引き摺っているわけにはいかない、何回も自分に言い聞かせてきたが、ノクトの今の姿を見れば、自分がしたことは正しかったとプロンプトは思う。残された方の辛さは残された側しか分からないが、間近で見ていても、胸が切り裂かれる程に辛いのだ。それに、もし、自分が生き残ってしまった側だったら、今のプロンプトには耐えられそうにもなかった。



「そろそろ行こうよ!」



世界の情勢が暗雲に突っ込もうが、青空はどこまでも広がっている。プロンプトは思いっきり背伸びをすると、仲間たちに声を掛ける。外から覗き込んだ洞窟は比べものにならないくらいに真っ暗だったが、プロンプトはいつも傍にいてくれる仲間たちがいるから、まだ平気だと思った。互いに支え合っていかねばならないのだ。彼の声に、イグニスとグラディオは辺りに広げていた道具をせっせと片付け始める。彼女のことを忘れようとばかりに、大声を出すプロンプトの姿に眉を顰めたのはノクトただひとりだった。
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