「ノクトー!」
「なんだよ」
「チョコボ乗りたい!ね、チョコボポスト行こうよ〜」
「ったく、しょうがねえなあ」



プロンプトの強い希望で、一向はチョコボポストへと車を走らせていた。乾ききった空気から少し湿気を含む空気の風へと変わったのを感じたプロンプトは大きく息を吸い込んだ。ノクトは移動中に睡眠を貪っていたが、隣でグラディオは本を読んでいる。リード地方を抜け、ダスカ地方へとやってきた彼らは最初こそ新しい景色を眺めていたものの、それも数分で終わり、いつものようにレガリアの中で過ごしていた。助手席でウキウキしているプロンプトを横目でチラリと見たイグニスが、ふっと口元を緩める。



「チョコボが本当に好きなのか」
「だって、カワイイじゃん〜」
「まあ確かに癒される生き物ではあるな」
「プロンプトは仲間として見られるかもしれねえしな」
「ちょっと待って!それってどういうこと〜!?」



本を読んでいるグラディオが、前部座席の二人の会話に口を挟んだ。彼はプロンプトの髪型をチラチラと見ながら、まるでチョコボのようだと言う。レガリアの中で交わされる何気ない会話の時間が、プロンプトはとても好きだった。自分はこの仲間たちに認められて、一緒に旅をしていると実感できるからだ。輪の中にちゃんと自分の居場所があって、周りの人間が自分を必要としてくれている。何よりもプロンプトにとって嬉しいことだ。
道路を横断する魔物の群れを見つけたイグニスがゆっくりとブレーキを踏み込んでいく。彼がブレーキを踏んだ理由に気づいたプロンプトは、すぐさまカメラを取り出して撮影モードに入る。王都の外に出ると、全てが彼にとって新鮮だった。リード地方においても魔物の写真も幾つか撮ってはいたが、このような場面には遭遇したことがなかったのだ。全ての魔物の横断を見届けたイグニスは、アクセルを踏み込む。そんなやりとりがレガリアの中で行われていたが、ノクトが目を覚ますことはなかった。
チョコボくさい、という言葉が存在するが、レガリアを停めた彼らにはその臭いを強烈に感じることがなかった。というのも、見渡す限りチョコボの姿が見当たらないのだ。チョコボポストというからには、たくさんのチョコボが駆け回っている場所を想像していたプロンプトはがっくりと肩を落とす。眠りから目覚めたばかりのノクトが本当に場所は合ってるのかとイグニスに尋ねる。イグニスは顎に手を当てつつも、間違いないはずだがと呟く。そのくらいには、閑散としていた。チョコボの姿が無くとも、人の姿はぽつぽつと見受けられる。ふと、簡素なテーブルとイスの近くに立って難しい顔をしている男性にプロンプトがすみませんと声を掛ける。声を掛けられた主は、くるりとノクトたちに振り向く。彼はウイズと名乗った。ウイズはチョコボに乗れない理由を語り始める。チョコボに乗せてあげたいのは山々なんだがね、と彼は悲しそうに口にする。そんな彼の話を聞き終わって、困っていることを理解したプロンプトは解決してあげようよと仲間たちに言い出す。困っている人を放ってはおけない優しさを持ったプロンプトのことは仲間たちがよく分かっていた。おまけに今回はチョコボに関することだ。そう言うと思った、とばかりの顔をした三人を見た彼は、嬉しげにしながらウィズに詳細を尋ねる。
つまり、スモークアイを退治してしまえばいいということか、イグニスがウイズから得た情報を整頓しながら結論を述べる。プロンプトは相変わらず落ち着かない様子で、早く退治に行こうよ、とひとり騒いでいた。グラディオに少しは落ち着けと小突かれる彼の隣で、ノクトはキョロキョロと辺りを見渡す。チョコボの鳴き声が聞こえたのだ。プロンプトほどではないものの、彼もチョコボに触れることをこっそりと楽しみにしていた。きっと、昔撫でたことのあるカーバンクルのように毛並みが美しく、ふわふわした感触がするのだろうな、と。
戦闘準備を済ませたノクトたちがスモークアイの退治に向かって、ウイズに女の声が掛かる。小さなチョコボを抱いた娘は、外からお客さんでもいらしたのですかと尋ねた。彼女の腕に抱かれたヒナチョコボが、下ろせとばかりに暴れる。今はスモークアイがいるために、チョコボを放すのは大変危険なことだった。ヒナチョコボが広い場所を駆け回りたいことは充分に理解していたが、彼女は心を痛めながらもヒナチョコボが自分から離れていかないようにと抱きしめる。



「おお、ナマエか。いつもすまないね」
「いえ、雇ってもらって本当に助かりました」
「さっき、黒髪の兄ちゃんたちがチョコボに乗りたいと言ってきてね。腕の立つハンターみたいだから、スモークアイの討伐を頼んだよ。金髪の兄ちゃんはとてもチョコボを愛しているように見えたね。眼鏡の兄ちゃんも、ガタイのいい兄ちゃんもいたな」
「チョコボがすきな、金髪……」
「まるで本人がチョコボみたいだったな」
「……そ、そうですか」
「しかし、あの兄ちゃんたち四人とも強そうだったが、スモークアイも一筋縄じゃいかないぞ」



ナマエは王都の襲撃から逃げ、レスタルムまでやって来ていた。自分が生活するためにはどうしても金が必要であることが分かっていたので、すぐに職を探した。すると、レスタルムから距離はあるものの、チョコボポストで人員を欲していることを耳にしたので住み込みで働くことを決めたのだった。王都に在住している時の仕事とはかけ離れたものではあったが、こんな非常事態に文句を言ってはいられない。それに、学生時代に聞いていた、プロンプトがチョコボを好きだという話を心のどこかで思い返していた。もう会えないという言葉は今もこびり付いて離れないが、世界中のどこかに彼はいる。忘れてと言われても、すぐには忘れられるはずがなかった。少しくらいは、彼の想い出に浸らせて欲しいとばかりにチョコボポストにやって来たのはいいが、それは単純に彼から離れられない自分の弱さと向き合うことになるのだった。嫌でも、チョコボを見れば、思い出してしまう。
不意に緩んだ腕から、ヒナチョコボがチャンスとばかりに飛び出す。あっ、と漏れた声が静かなチョコボポストに響き渡った。ちょこまかと動くヒナチョコボは、彼女の周りをぐるぐると回る。スモークアイのせいで、屋内で過ごす時間が圧倒的に多くなっていたヒナチョコボは久しぶりの外の空気に興奮ぎみのようだった。そんなヒナチョコボを目にした彼女は、プロンプトはこんな風にいつも元気で、周りの人もその元気を貰っていることを思い出す。ひとしきり駆け回って満足したようで、足元で止まったヒナチョコボを抱き上げると、ふかふかの身体に顔を寄せた。もう、触れられる日が来ることはないが、プロンプトが元気ならそれでいい、そう思った。ウイズが会ったという人物が、別人でも本人でも、もうナマエには関係のないことだ。傍にいることを許されてはいないのだから。ウイズに軽く頭を下げた彼女は、まだ遊び足りないと主張し続けるヒナチョコボを抱いて、飼育場へと戻った。
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