「おお、スモークアイを退治してくれたのか」
「ああ。これで」
「チョコボ乗せてもらえるのかな!?」
「はは、そこの兄ちゃんは本当に好きなんだな。サービスは復興しているから、いつでもこれでチョコボを呼んでくれ」



ウイズに手渡されたチョコボの笛を眺めているノクトの後ろで、チョコボポスト中に放されているチョコボを見たプロンプトは瞳をキラキラとさせる。ヒナチョコボたちが人間たちを気にせず自由に駆け回り、柵の中のチョコボたちは飼育員と無邪気に戯れている。プロンプトのテンションは空を突き抜けるようだった。柔らかく、あたたかい身体に飛び込めば、チョコボ独特の臭いが鼻を擽ったが、それよりもチョコボと触れ合えること自体が彼にとっては嬉しくてたまらない。プロンプトがカメラを手に持って施設中を駆け回る様子を見たグラディオとイグニスは、ウイズと長話をするためにイスに腰掛けた。こりゃ長くなるな、グラディオが笑いながら言うとイグニスが相槌を打つ。一方、ノクトはチョコボの笛をポケットに入れ、柵の中から自分の方を見つめているチョコボの傍へ近づいて行く。そして、生き物の命を慈しむようにそっとチョコボに手を伸ばす。気がついたチョコボが首を伸ばし、彼に触れられることを喜んでいるようだった。
覚束無い足取りのヒナチョコボの絶妙な可愛らしさに骨抜きにされていたプロンプトは、ヒナチョコボの後をゆっくりと追いながらシャッターボタンを何度も押した。地面を啄いてみたり、仲間たちと身体を擦り付け合う様子は彼を癒す。すると、そのヒナチョコボはある女性の姿を発見すると同時に猛ダッシュを披露した。プロンプトは、親に駆け寄っていく子どものようで微笑ましく思った。彼女に話を聞けば、もっとあのヒナチョコボのことを教えてもらえるはずと思った彼は、背中から声を掛ける。ナマエと隣に並んだときの身長差とそっくりだと思った時には、彼女は振り返っていた。



「お姉さん〜、このコのこと」
「……は、はい!」



ふたりの目が合う。息を呑むのも同時だった。どちらも、相手の名前を零しそうになったが、一方はくちびるを結び、一方は口元を押さえる。互いに場所も関係もすっかり変わってしまっていても、相手の姿が分からないわけがなかった。関係を切ってからの時間よりも、繋がっていた時間の方が随分長いのだから。
どのくらいの時間、言葉もなく立ち尽くしていたのかはナマエにもプロンプトにも分からなかったが、止まった時間を切り裂くようにヒナチョコボが一声鳴いた。彼らの時間はその瞬間にまた、動き出す。ふと我に返った彼女はヒナチョコボを抱き上げると、彼に背中を向けて走り出す。振り向かずに走り去っていく彼女の背中に手を伸ばしたものの、足を動かすことのできないプロンプトはその場に座り込んだ。最近、眠った時に彼女の夢ばかりを見ているせいでこれも夢ではないかと最初は疑った。だが、すぐにこれは現実だと自分に言い聞かせた。それに、走り去っていく彼女を追いかける資格など、自分にはないのだ。あの手を離したのは、自分なのだから。
ナマエの心臓は本人が嫌になるほど、大きな音を立てる。そんな彼女に抱かれたままのヒナチョコボも心臓の鼓動に驚いたようで、暴れては腕の中から逃げていく。取り乱したナマエはヒナチョコボを追うこともできずにいた。とにかく、彼から距離を取らなければ、離れなければ、という思いに駆られる。無意識のうちにウイズの元に走って来ていた彼女は、イスに腰掛けてウイズと話をしていた三人の顔を見ていく。その内のひとりと、また目が合う。プロンプトと違って、その人物は彼女の名前を紡いだ。



「ナマエ、か?ナマエなのか?」
「……の、ノクティス様」
「なんだノクト、お前にも女の知り合いがいたのか」
「ノクトが世話になっていたのか?」
「はあ?ナマエは学校の知り合いで、プロンプトの」
「ノクティス様、それは」
「……っ、悪い」



口を閉じたノクトの様子を見た二人は、彼の言いかけたプロンプトの続きを勝手に想像していた。おおよその予想はつく上に、どうして彼女が言葉を遮ったかも察してしまったために追及しようという気にはなれなかった。更にイグニスは、ハンマーヘッドでのプロンプトを思い出していた。旅立って、すぐのあの日のことを。クマを作ったプロンプトの歯切れの悪い、咄嗟の言い訳のような言葉の原因は彼女かもしれないと考えたのだった。



「ナマエ」
「はい」
「元気か」
「……元気です」



明らかに元気でないことは、言葉よりも彼女の表情が物語っていた。ノクトはイスから立ち上がると、ナマエを手招きする。ここはチョコボくさいから、場所を変えようぜと言う。その言葉の真意を理解したイグニスは久々の再会した学友と時間を過ごすのもいいだろう、とコーヒーを口にしながら言う。行って来いよとグラディオが笑った。ナマエはウイズも含めた三人に頭を下げると、ノクトの後をついていく。
チョコボポストの近くにある見晴らしの良い場所は、風が大変気持ちのよいものだった。周りで観光客が美しい景色について言葉を交わしている。その中で、不意に視界に入ったカップルはふたりで写真を撮っていた。ナマエは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。前を歩くノクトはその表情を知ることはなかったが、先程の彼女の様子からきっとプロンプトに会ったと勝手に予測していた。そこからしっかり確かめていかねばならない、そう思った。



「ナマエ、たくさん聞こうとは思わねえけど」
「はい」
「プロンプトには、会ったか」
「さっき、会いました」
「話は?」
「してません……いえ、できませんでした。わたしが逃げてしまったから」
「それでいいのか」
「わたしはプロンプトくんの理由を知りません。だから、何も言えないんです。それにもう、今更遅いって分かってますから」
「……そうか」
「あのとき、理由をきちんと聞けたら違ったのかな、なんて思ったりはしますけどね。いいんです、もう。今はノクティス様と一緒ってことが分かっただけでいいんです。ノクティス様も、プロンプトくんも、生きていたから」
「ナマエも無事で安心した。ありがとな、話してくれて」
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