魔物退治を請け負うためにノクトたちはチョコボポストを訪れていた。ナマエと再会した後から、プロンプトは相変わらずのチョコボ好きを発揮し、頻繁にチョコボポストに行こうとは言うものの、いつも彼女の姿がないかと気にしているようだった。まるで、会ってはならないとばかりに。イリスと話したことでいくらか答えを出せたようだったが、まだやはり足が竦んでしまうらしい。チョコボを愛でることは変わらないのだが、用件がない限り長居することは避けているようだった。他の三人は、ナマエのことについては一切触れなかった。ノクトも彼女と話をしたことをプロンプトに喋らないままだ。



「おお、兄ちゃん。元気にしてるか?」
「ああ」
「何か、困ったことはないだろうか?」
「魔物は兄ちゃんたちがほとんど倒してくれたから助かっているよ。ただ……」
「なんでもオレたち聞きますよ!」
「ナマエが、外に出てしまったヒナチョコボを追いかけていったんだが、少し心配でね。すぐに戻るとは思うんだが……」
「丸腰の女性ひとりで出て行くのは確かに危ないな。近くでヒナチョコボを捕獲できればいいが、遠くまで行った時が確かに心配だ」
「こういうことは何度かあるんだが、今回ばかりは時間がかかっているから尚更心配しているんだ。彼女はチョコボを連れて行ったが、やはり心配は心配だ」
「おい、プロンプト!」



咄嗟に走り出すプロンプトは近くにいたチョコボに跨ると、グラディオの制止も聞かずに勢いよく飛び出して行った。緊急事態ではあったが、ノクトは笑みを漏らす。そんなノクトを見たイグニスもつられるようにして、微笑む。プロンプトがやっと全員の前で本心を表したことに。ナマエのことをずっと想っているのがバレバレだ、ノクトは心の中で一人呟いた。イグニスやグラディオは自分たちの予想が外れていなかったことを、確かめるために口を開く。



「やっぱり、な」
「ノクト、この際だから聞いておくが、やはり彼女は」
「ああ、イグニスの思った通りだ」
「好きな女は離すな、って背中叩いてやりてえな」
「ナマエのこと、きっとプロンプトは今でも好きだ。それにナマエも」







「もう、すぐ飛び出して行っちゃうから」



ナマエは逃げ出したヒナチョコボを腕の中に閉じ込めた。嬉しそうに鳴くヒナチョコボは、忙しい彼女に構って欲しいと思っていたのだろうか。彼女の乗って来たチョコボは、休憩とばかりにその場に座り込む。チョコボポストからそう離れてはいないものの、気を落ち着けられる場所でないことを充分ナマエは理解していた。しかし、ヒナチョコボを追いかける中で無理をさせてしまったチョコボの頭を撫でながら、少しだけ休憩しようとチョコボに背を預ける。気合いを入れて走っていたようで、緊張の糸が切れ一気に安心しきったヒナチョコボはすっかり夢の中で、おとなしくなっていた。
プロンプトたちがチョコボポストにやって来た時のノクトの言葉を思い出す。時間を置いて考えてみたが、最後まで理由を聞けなかったのはナマエの落ち度なのかもしれない。プロンプトともっと話をしていれば、理由を聞くことができたかもしれない。そうすると、自分たちの今が変わっていた可能性もある。しかし、そこでやはり同じ答えに辿り着く。その理由を話せなかったのは、プロンプトに信用できると思われていなかったのではないかということだ。



「ナマエちゃん!」
「え……?」
「どこか怪我したの!?大丈夫!?」



いつも殻に閉じ篭っているのは自分だった。元、恋人ではあるが、プロンプトから久しぶりに名前を呼ばれたナマエは顔を上げる。大声に驚いたヒナチョコボが彼女の腕から飛び出して、また逃走し始めるところを彼がしっかり捕まえて抱き上げた。彼女の夢では、プロンプトの口の形が変わっても、決して音として名前が紡がれることはなかった。声にならなかった、名前が、たった今、プロンプトの口でひとつずつ噛みしめられた。随分と取り乱したプロンプトは、ナマエの腕や足に触れて傷がないか確認したあとに、その手を彼女の頬へと伸ばした。彼女の無事を確かめることに必死で、触れることへまるで遠慮などないようだった。恋人だった時のような優しいぬくもりに、ナマエの瞳からぽろぽろと零れ出す涙。止まらないそれを拭おうと両手を伸ばしたプロンプトの元から、ヒナチョコボが抜け出すと、傍で丸くなった。もう、恋人ではない、そう彼女が口を開こうとすれば、プロンプトが腕の中に××を閉じ込める。そんなことをしてしまったら、捨てられずに鍵を掛けて心の底に閉じ込めていた彼との想い出がまた溢れてしまうことを恐れて、ナマエは彼を突っぱねようとする。しかし、その力は彼にずっと前から及ばないことを彼女は知っている。それに、プロンプトのことを本気で離そうとナマエは思っていないのだ。それは、彼に書こうとした手紙の件で、本人が一番よく分かっている。だが、分かっていても、自分は彼の元に戻ってはいけない。その思いが、プロンプトを押し退けた。
彼女の近くで休んでいたチョコボが彼らの間に立ち塞がる。大きな壁のようにプロンプトの前に立ったチョコボは、飼い主を守るようだった。ナマエの姿は隠され、彼はどうしようもないまま、その場に立ち尽くす。彼女の手がさっきまで触れていた場所が焼かれたように痛かった。自分の手に目をやったプロンプトは、手の色がはっきりと認識できないことから日が傾いてきたことを知る。



「……ナマエちゃん」



もう、返事をしてくれないのではないかと怖かった。彼女の中では、もう自分の存在を消されてしまったのではないかと。プロンプトの声は震えていた。それでも、今の状況のまま、夜を迎えることがまずいのは間違いのないことだった。夜になれば、魔物に加えてシガイも出現する可能性が否めないからである。近くにあった小さな洞窟で明るくなるまで待つことを提案すると、彼女は返事こそなかったが、その洞窟へとチョコボたちを連れて歩き出す。プロンプトもナマエの後を追うように、自分の乗ってきたチョコボの背中をトントンと叩いて歩かせる。その表情は決心がようやく固まったようで、暗くなり始める空とは対照的に、瞳には光が篭っていた。これが自分にとっての、最後のチャンスだと。
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