チョコボの卵をじっと見つめたわたしは、近くにいたヒナチョコボの頭を撫でる。頭のてっぺんからお尻の先まで、つう、と指を動かしていく。柔らかな羽毛が指の間を擽った。わたしは完全にプロンプトくんとの繋がりが切れてしまったと思っていたけれど、決してそういうわけではなかったらしい。声を掛けられたとき、すぐに彼の声だとわかったし、ヒナチョコボのことを聞きたがった彼はやっぱり優しいままだった。
あの日は、プロンプトくんの腕の中でたくさん泣いた。わたしの元を去っていく時は、誰のぬくもりもない中でひたすら涙を流し続けたけれど、また、彼は傍にいてくれると言った。プロンプトくんを探していたようで、太陽が顔を出した頃、ノクティス様たちがわたしたちを見つけてくれて、チョコボポストまで送ってくれた後、すぐに二人きりにしてくれた。ノクティス様には本当にお世話になってばかりだ。
わたしは、自分が借りている部屋に彼を招いて、別れ話を持ち出した理由を尋ねる。今度こそは言ってもらえると信じて。彼の口からは、ナマエちゃんを悲しませないためだよ、と零れる。わたしはプロンプトくんがいなくなることが一番悲しいことだと思っていたのに。胸の中で燻る思いを軽率に口にできなくなったのは、彼の次の言葉だった。外の世界へ行ったら、命を落とすかもしれない。帰らぬ人となったオレのことをいつまでも待って欲しくない。それなら、いっそ先に切り離した方がキミのためだって、思った。苦しげに語るその横顔を見たわたしは、悲しみに暮れていたのは自分だけでないことを思い知らされる。プロンプトくんは自分のことよりも、また相手のことを考えて決断していたのだ。わたしのことを考えて。でも、とその後呟いたプロンプトくんは顔を上げて、わたしに視線を移す。オレはずっと、キミと一緒にいたいんだよ。あの時だって、本当は待っていてと言いたかった。だけど、言えなかった。震える手を彼は自身の額に押し当てて、息を吐く。素直に自分と向き合ったら、答えはひとつしかないのに、オレは。そう言った彼をわたしは、ぎゅっと抱きしめた。胸に顔を埋めたプロンプトくんの背中が揺れる。小さな嗚咽が聞こえる。ゆっくりと回ってきた腕に、わたしは少し安心した。自分を責めてばかりいて、部屋に入った時から少し距離を保ったままの彼がわたしに身体を預けてくれたからだ。不思議と、涙が零れていた。ぽたりと落ちた涙は、プロンプトくんの肩に落ちる。あたたかい、涙だった。頬を伝うそれは、熱の篭ったもので、今までの涙とは感触が違うのだ。プロンプトくん、話してくれて本当にありがとう、そう言えば、抱きしめられた力が一層強くなる。わたしは何があったって、ふたりならなんでもできると思うし、何があってもずっと待てるよ。



「チョコボの卵?」
「うん」



わたしの隣にしゃがみこんだプロンプトくんは、別のヒナチョコボを抱いていた。ノクティス様の大切な旅についていく彼は、危険な場所へ踏み込んでいくこともある。毎日、獰猛な魔物と戦いを繰り広げる。過酷な旅になることをノクティス様が教えてくれた。いいんです、わたしには待つしかできないから。そう言えば、ノクティス様が笑った。プロンプトが喜ぶ、と。



「いつ孵るか楽しみだな〜」
「すぐに教えてあげるね」
「めちゃくちゃかわいいんだろうなあ……」
「ふふ、可愛いよ。絶対」
「……でも、オレは」
「うん?」
「い、いや、なんでもないかな〜あはは」



誤魔化したプロンプトくんの顔を見れば、彼はわたしに背を向けて走り去っていく。ヒナチョコボは彼の腕の中で暴れているらしく、走って行くプロンプトくんの腕から飛び降りていた。もう、彼は秘密にすることをやめて、きちんと言わないといけないことは目を見て、話すと言っていた。わたしはそれを信じて待つだけだ。隠し事はお互いにしないことを、約束したのだから。



「ナマエ」
「イグニスさん」
「プロンプトを見なかっただろうか」
「さっき、向こうに走って行きましたよ」
「そうか、ありがとう。プロンプトは貴女のことをとても大切に想っているようだ。俺からもよろしく頼む」
「い、いえ、わたしこそ、あのプロンプトくんのことよろしくお願いします!」
「貴女はノクトとも親しいのだろう?」
「ノクティス様はプロンプトくんがいたからこそで……」
「ノクトを見ていれば分かる。貴女がどんな風に接してくれたのかが、な」
「……ノクティス様は、わたしたちのことをすごく大切にしてくれています」
「そうだな」



イグニスさんの眼鏡の向こうの瞳がとても優しく細められたのが分かった。プロンプトくんの周りには心の綺麗で、優しい人ばかりがいるのだ。旅の途中でどんなに心細くなったとしても、この人たちが一緒にいてくれたら大丈夫。そう直感した。わたしは旅についていくなんてことはできないけれど、この場所からずっと彼のことを想い続けよう。例え直に触れることができなくても、いつかはきっとまた会える。そう信じて。抱え込んでいたチョコボの卵が一瞬、動いたような気がした。
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