夜が随分と長くなってきていた。おかげで、チョコボたちが自由に走り回ることのできる時間も大幅に減った。庁舎の狭いスペースで窮屈にしている姿にナマエは胸を痛ませていたものの、夜の異常な長さは一般人にはどうにもできないことだ。ラジオで夜の長くなる原因を調査する人間もいたが、世界中のほとんどの人間は大元の原因を知らない。彼女がオルティシエへ旅立つノクトたちの後ろ姿を見送ったあと、チョコボポストには小さな生命が誕生していた。親チョコボの元で温められていた卵に亀裂が入った時には、ナマエが大慌てでウイズを呼びに行っていた。てんやわんやする人間の姿を見たヒナチョコボたちはそれにつられるように、卵の周りへ集まる。愛おしそうに我が子を見つめる親の姿は、人間もチョコボも変わらない。小さな小さな命が、夜の下で鳴いた。 「生まれましたね、ウイズさん」 「ああ、何度も見てきたがやはり、いいものだな」 「初めてこんなに近くで見ました……新しい命の誕生を」 「ナマエも、これからたくさん見るだろう。チョコボの誕生だけでなく、そのうち自分の子どもを、な。あの兄ちゃんと一緒になるつもりだろう?」 「と、突然、何を言い出すんですか!?」 「まあ、それはともかくだ。この子に名前を付けてあげないとな。ナマエ、名付け親になってみてはどうだい?」 「え!いいんですか?」 「世話をいちばんしていたからね」 ナマエをからかいながらも話すウイズの瞳は生まれたばかりのヒナチョコボをじっと見つめていた。親チョコボの腹を弄るように頭をキョロキョロさせ、自分の目に飛び込んでくる新たな世界を堪能しているようだった。本来であれば、この時間はもっと空が明るく、光を感じることができるはずだったが、今はその時間が僅かだった。もしかしたら、このヒナチョコボが外を走り回れる頃にはすっかり光は失われているかもしれない。 ナマエとウイズが開けっ放しにしていた扉に駆け込んできたのは、まるでチョコボのような髪色をした青年だった。ヒナチョコボに気を取られていて、全く背後のことに気づいていない彼女たちだったが、彼に気がついた一羽のヒナチョコボが駆け寄って行く。今日孵った卵と同じくらいに、ナマエがよく世話を焼いているヒナチョコボだった。よしよし、と零れて言葉に彼女は振り返る。ふわふわと揺れる髪の毛をした、青年と目が合う。 「ただいま」 「プロンプトくん!おかえりなさい」 「未来の旦那様の帰還かね」 「ちょっとウイズさんダメですよ、しーっ!」 「なんて?」 「な、なにもないの、なにも」 「ふうーん?」 詰め寄るプロンプトの勢いに負けて、彼女が後ずさると、生まれたばかりのヒナチョコボの姿が彼の目に入る。途端に瞳を輝かせたプロンプトは小声で、このヒナチョコボが自分の知っている卵の子かどうか尋ねた。ゆっくりと頷いた彼女の手を咄嗟に取ると、感謝の言葉を述べる。 「見られて嬉しいよ〜!だって、ずっと楽しみにしていたんだからさ」 嬉しいという言葉を口にするものの、彼の表情はどこか浮かないものであることをナマエは感じ取っていた。やがて、イグニスやグラディオも姿を見せる。再会を喜び合っているところで、彼女は王の名を口にする。だが、三人から返される言葉はない。沈黙に覆われた中で、イグニスが探り探りで彼女の肩に手を置いた。そこでようやく、ナマエは気づく。イグニスが最後に会った時とは、何かが違うことを。 「貴女も知っていて欲しい。俺たちは王の帰還を待つ」 「ノクティス様は、生きているのですね」 「ああ、ノクトは生きてる。だがな、俺たちには待つしかできねえ」 「……ナマエちゃん、オレも待つ側になっちゃったよ。待つのって、こんなにも、ね」 「だが、ノクトは必ず帰ってくる。貴女も一緒に待ってくれると、きっとノクトも嬉しいだろう」 ノクトの話を口にした後、もうナマエが知っていると思っていたが、彼らは彼の婚約者であるルナフレーナのことも彼女へと伝えた。直接伝えられた言葉はひどく重く、冷たい空気が身体を刺すようだった。イグニスの手がナマエの頬に触れる。彼の指を濡らす正体は、見えなくとも分かっていた。最後に見た彼女を思い出しながら、そっと頭に手を置く。ナマエは泣いてはいけないと分かっていても、溢れる涙を抑えることなどできなかった。感情を前面に出そうとしない三人分、泣いた。彼らはきっと彼女の知らないところで、思い思いに吐き出しているに違いなかった。ナマエの前では弱音を吐かなくても、あの四人の間だったらきっと言葉にも表情にも出せるのだ。彼女は、イグニスの手を両手で包む。プロンプトは何も言わなかった。 「わたしも、ノクティス様のことを待ちます」 |