「ナマエちゃん」 一日がすっかり闇に覆われた世界になってから、人々はメテオの明るさを頼りにレスタルムへと集まっていた。チョコボポストもシガイの徘徊拠点になっていたため、ウイズの判断によりチョコボたちを連れて、レスタルムへとやって来ている。チョコボは、心を痛めた人々からは癒しの存在として重宝されたものの、そのチョコボたちを飼育する施設などはない。簡易な飼育場を用意してもらうまで、ナマエはチョコボたちの世話に追われていた。そんなレスタルムへとプロンプトは何度も訪れる。彼はハンマーヘッド付近で活動していることが多かったが、時折こうしてナマエに会いにレスタルムへと足を運ぶのだ。ノクトの帰還がいつになるかなど、誰にも想像できなかった。ただ、残された人間は待つしかできないでいたのである。自分たちの生活を確保するだけでも精一杯だ。 「今、話せる?」 「もうすぐ休憩だから、ちょっと待ってて」 チョコボたちに埋もれながら手を上げたナマエの姿を見て、プロンプトは笑った。相変わらず、チョコボが好きなんだと思ったが、そういえば学生時代の頃にチョコボが好きだという話は一度も耳にしたことが彼はなかった。あんなに好きであれば、話題に出てもおかしくない。自分が話を持ち掛けた時には、そこまで好きなイメージはなかった気がするとプロンプトは首を傾げる。 「あのさ、オレ、ナマエちゃんに話してないことがあるんだ」 「隠し事は」 「もうしないって決めたから、今からちゃんと話すよ。あの、オレ、実は」 「プロンプトくん?そんな深刻な隠し事なの」 「うん……オレ、実は、二フルハイムの生まれなんだ」 「生まれたところが違うってこと?」 「それに、これを見て」 プロンプトはリストバンドを外して、手首をナマエの前に差し出す。細かったり、太かったり、黒い線が並んでいた。まるで、何かの印のようだ。泣きそうな顔でナマエの表情を伺うプロンプトは、現実と向き合う。自分が異質な人間であっても、目の前の人にはきちんと知っていて欲しかったのだ。 「……気持ち悪いよね?」 「プロンプトくん」 「う、うん」 「おバカさん」 「ええっ、待ってよ、オレ」 「わたし言ったよね、プロンプトくんはプロンプトくんだって。それに自分のことを大切にしてねって、わたし絶対言ったから」 「覚えてる。あの時、すごい、嬉しかった……」 「今わたしが言いたいこと、昔、言ってるから」 「……ナマエちゃんってたまに強気だよね。でも、ありがと」 普通の人間でなければ離れていく。そんな考えなど毛頭ないナマエはバッサリとプロンプトを一瞥する。高校生の時から彼を知っている彼女にしてみれば、プロンプトの生まれを知ったところで、彼の本質を見てきたからこそ、線引きをするようなことはない。 「もう一つ言いたい、というか、聞きたいことあるんだけど、いい?」 「うん」 「ナマエちゃんってそんなにチョコボ好きだったっけ?オレが知らないだけ?」 「え、えっ、そう!?プロンプトくんには言ってなかったっけ……!」 立場が逆転したようにプロンプトはナマエに詰め寄る。ふたりが話をしているのは、レスタルムの活気に呑まれることのない静けさを持つ、かつてはカーテスの大皿がよく見える場所であった。ベンチに腰掛けたナマエは端へと逃げるように、座る位置をずらしていた。そんな彼女を逃がすまいと、プロンプトは距離を空けないように自分もベンチの端へと動いて行く。二人掛けでゆったりと座ることのできるベンチのはずが、大変バランスの悪い座り方になっていた。プロンプトは彼女が隠し事をする時の癖をよく知っていた。だからこそ、今も確信を持って迫ることができたのだ。 「……聞いたことないよ」 「い、言ってないもん」 「ホントに?」 「うっ……」 「ホントのこと言わないと、ここで襲うけどいいの?」 唐突な問いかけに対して観念したナマエは、両手を挙げて降参の合図を送る。何があっても、人前でそんなことをするつもりはないプロンプトは、真面目に受け取った彼女のことを笑った。冗談が通じないくらいには焦っていることがよく分かる。それに大きく出たプロンプトだが、彼こそ公衆の面前で堂々とそんなことをできるはずはないのだ。 「本当は、ね」 「うん」 「……忘れられなくて。もしかしたら、チョコボのいる場所に来るかと思ったの」 「オレが?」 「だってプロンプトくん、チョコボが大好きって聞いていたから」 学生の頃、チョコボの話で盛り上がったことがあった。といってもプロンプトが一方的に盛り上がったといった方が正しい。ナマエは楽しげに話す彼を見るのが好きだった。チョコボの特徴を述べ、どういうところが好きなのか。今はチョコボに関するグッズも出てるし、限定商品をオレは持っているんだという自慢を延々と聞いた。プロンプトのチョコボへの強い愛はひしひしとナマエに伝わっていたのだ。 「チョコボポストにいれば、会えるかもって」 「そしたら、ホントにオレと再会しちゃったって……わけ、か」 「引き摺ってもしょうがないって分かってたけど、縋るものはそのくらいしかなくて。だって、あとはプロンプトくんがくれた、たったひとつのものしかなかったの」 「え?オレ、なんかあげたっけ」 「卒業のときに、第二ボタンをくれたでしょう?ちょっと恥ずかしいけど、わたし今でもずっと持っているの」 「あっ……!えっと」 「ほら」 彼女が鞄の中から取り出したポーチをプロンプトが覗き込む。化粧用のポーチらしく、グロスや櫛、手鏡が詰められている。その奥から彼女が摘まみ出したのは、小さなジップ付きビニールに入れられた学生服のボタンだった。ナマエがちょうだい、と言う前にプロンプトから持ってて、と言ったことを思い出した彼は、彼女を抱き寄せる。 「ポーチが落ちちゃう……!」 プロンプトは自分だけがいつまでも想っているのだとばかり、思っていた。しかし、そうではなかったのだ。ナマエも、彼女なりの形でずっと自分のことを想ってくれていたのだ。嬉しくて、どうしようもなくて、目の前にいる彼女に触れる。触れられる距離にいるのだから手を伸ばさないはずがない。こんなにも近い距離にいるのだから、躊躇うことなんてひとつもないのだ。 すっかりベンチに収まったふたりの元にヒナチョコボが駆け寄ってくる。仮の飼育場から脱走したヒナチョコボはプロンプトの足を啄む。小さいが、嘴で突かれるとそれなりに痛い。彼は痛みに耐えながら、息を吐いた。ナマエの身体から手を放した瞬間を狙ったように、ふたりの間にヒナチョコボが入り込む。いつの間にか、彼女の熱を奪っていくのはヒナチョコボにすり替わっていた。 「ルーメン、脱走しちゃダメでしょ?」 「……うう、とられた」 「プロンプトくんも拗ねない。わたしだって」 腕にルーメンという名前のヒナチョコボを抱いた彼女は、そっと落ち込む彼の耳に口を近づける。まるでセイレーンが囁くような声に、身体が固まってしまうプロンプト。伝承では、惑わせた人間を食い殺してしまうが、ナマエはそんな物騒なことはしない。しかし、痺れたように動けなくなってしまう。わたしだって、もっと触れていたいよ、と夜の下でナマエは妖艶な笑みを浮かべて囁いた。 |