ノクティス様を待ち続けて十年の時が過ぎていた。シガイの活動範囲はどんどん広まっており、人々の暮らしは危険との隣り合わせだった。プロンプトたちが、ハンターとして活躍する話を耳にするけれど、その数は一向に減る様子もなく、むしろ増えるばかりだ。そんな中、ノクティス様の帰還の知らせがわたしにも届いた。レスタルムにいたわたしはプロンプトに連れられて、ハンマーヘッドを訪れる。
十年という時は、姿の変化をもたらしていたものの、ノクティス様自身はあまり変わっていないように見えた。隣で嬉しそうに笑うプロンプトだって、そう変わっていない。髭を生やし始めた時は驚いたけれど。イグニスさんもグラディオさんも、再会を喜んでいるようだった。この後、決戦に臨むことは分かっていても、この穏やかな時が一日でも続いて欲しいと願ってしまう。こうやって、皆で笑い合えているこの時が。でも、ノクティス様はわたしを見て言ったのだ。本当の穏やかな世界を取り戻すためにオレは行く、と。



「ところで、プロンプト」



談笑中に真面目な話を挟みながらも、流れた時の間に起こったことをノクティス様は細かいところまで尋ねる。この場にわたしがいない方が話しやすいかなと思い、理由をつけて席を外そうとした時にノクティス様が、急にプロンプトに話を振った。肉にかぶりつきながら、呼ばれた名前に返事をした彼は首を傾げる。情報収集をするならば、一番手っ取り早く理解に辿り着けるのはイグニスさんが間違いないし、グラディオさんだっている。それなのに、プロンプトに話を聞こうとするのはなぜだろうか。わたしは、料理の減ったテーブルを見て、簡単に追加で作ることにした。積もる話は四人の方がきっと、盛り上がるだろう。







「もう、アレだろ?」
「は?アレじゃ分かんないって」
「ナマエと」
「ナマエがどうかした?」
「呼び捨てになってんのか」
「だからさ、何が言いたいの?」
「ノクト、悪いがその期待は外れだ」
「そうだぞ、ノクト。俺たちもまだそのことを聞いたことがねえ」
「ウソだろ?」
「え、なに!みんな分かってんの!?」
「……はあ、だから、結婚したのかって聞いたんだよ」
「あ」



プロンプトに三人の視線が一気に集まる。自分以外は話が通じ合っているようだというのに、仲間外れにされたようで拗ねそうになっていたが、結婚というワードが出た瞬間に明後日の方向を見つめたフリをする。グラディオはやれやれ、と息をひとつ吐く。



「あれから十年も経ってんのに、まだ結婚しねえんだぜ。王様からもなんか言ってやれ」
「学生からの年月も考えると、彼女はプロポーズをいつでも受けてくれると思うのだが」
「プロンプト……」
「……オレはちゃんと言うつもりあるから!でも、ノクトが帰って来る前にそれは違うなって思って」
「……プロンプトらしいな」
「この話はダメ!もう恥ずかしいからやめよう!」
「ふうーん?」
「いっそ、ナマエを孕ませちまえばいいのにな」
「グラディオー!!」
「どうせ結婚すんだ。順番が多少前後してもいいだろ」
「はは、やっぱお前ら変わんねーわ。プロンプト、ナマエを幸せにしてやれよ。ナマエも、オレの大切な友人、だからな」
「うん……ありがと、ノクト」



王城での決戦に臨む彼らの表情には、それぞれの思いが浮かんでいた。その中で、ノクトは彼らに伝えなければいけないことをずっと心に秘めていたが、それは最後にするであろうキャンプまで持っていくことを決めていた。そこで、自分のこれからと気持ちを全て話そう。だからこそ、今だけは楽しい時間を送らせて欲しいと願っていた。十年前よりも落ち着いたプロンプトの明るい笑顔、十年の間に相当な訓練を積んだであろうイグニスの微笑み、十年経っても見劣りしない身体を持ったグラディオの豪快な笑い声。十年経っても、仲間たちに囲まれる居心地の良さは錆びずにいた。
その場に皿を持って戻ってきたナマエの姿を目にしたプロンプトは、彼女に気を取られて自分のことを気にしていない隙に、誰にも聞こえないくらい小さな小さな声で、結婚かあ、と呟いた。ノクトとルナフレーナの間で、何度もそのワードは出ていたものの、いざ自分がそういう立場になると、どうしようもない恥ずかしさに襲われるのだった。今のプロンプトなら、からかわれる側の気持ちが分かる。将来のことを考えていないと言えば、嘘になってしまうかもしれない。だが、彼にはまだやるべきことが残っているのだ。そのこともあって、落ち着くまでは彼女にその話を持ちかけることはやめておこうと心に誓っている。ノクトたちと会話しながら、皿を簡易なテーブルに並べていくナマエをぼんやりと見つめる。一面に雪が降ったかのような、純白なドレス。オルティシエを訪れた際、自分には到底手の届かないと思ったドレスを、彼女が着るのだろうか。プロンプト、といつの間にか目が合っていたナマエが彼に声を掛ける。



「これ、新しく作ったの。どうぞ」
「あっ、うん!ありがと」



いつだって、彼女は自分のことを考えてくれた。時には自分のために強引になったりもする。プロンプトは今までの出来事を思い返しながら、出来立ての料理に手を伸ばす。この世界の本当の姿を取り戻したら、絶対に彼女にプロポーズしよう。仲間たちを見回して、もう一度、彼女をじっと見つめた。今度は、しっかりと。
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