日付が変わった瞬間に、枕の上に置いてある機器の画面を賑やかにしたのは様々な人からのメッセージであった。誕生日というイベントは一年に一度しかないが、それでも毎年ある特別な日である。浮かれているのはこの機器の持ち主であり、本日誕生日を迎えたプロンプトだ。自室に戻ってきた彼は、日付が変わっていることを時計で確認すると、まるで犬が好きな物を発見し、尻尾を振って飛びつくようにベッドへと飛び込んだ。毛布が一瞬だけ、ふわっと浮き上がる。ベッドから小さな風の波が起こって、近くの物を優しく揺らした。 決して多くない数だったが、プロンプトは一通一通大切に目を通す。画面をスライドして、ある差出人に思わず身体を持ち上げた。ノクト、と表示されていたからである。夜も早く眠っていそうだと勝手に想像していた彼が日付の変わったあとに、メッセージを送ってきていた。おめでと、これからもよろしくな。簡素なメッセージであったが、仲の良い彼から送られてきたことが何よりもプロンプトを嬉しくさせる。友達っていいな、もう一度横になった彼は次にある名前を探した。 その後、何度かチョコボの鳴き声と共にメッセージが来ていたが、すっかり大人しくなったそれを再び枕元へ戻したプロンプトは両手を絡ませて、後頭部へと回す。何もない天井に思わず、溜め息が零れた。明日は学校が休みだ。だからこそ、こんなにもメッセージが届いたのかもしれない。直接会う予定を作らない限り、友達と会うことはないのだ。そして、ナマエにも会う予定などない。 昨日、昼休みの終わる少し前に彼女と顔を合わせていた。もちろん、互いにプロンプトの誕生日についての話など出していない。祝って欲しいと催促をするわけでもなく、そして誕生日のことを確認されるわけでもなかった。プロンプトはいつも通りであり、ナマエも然りだ。一緒に帰れないという彼女の言葉を聞いて、プロンプトは内心寂しいと思っていたが、それさえも口に出さない。いつもいつも都合が良いわけではないから仕方がないと、彼は言い聞かせていた。同じクラスの彼女と話をしたのはその時だけで、あとは移動教室の時に視線が絡み合ったくらいである。誰にも見つからないようにそっと微笑む彼女が、とても可愛らしくプロンプトの目には映った。次の瞬間、ノクティスに小突かれたわけだが。 ナマエちゃん、オレの誕生日知らないのかな。何気なく零した言葉に、ハッとしたプロンプトはベッドから離れると、ぐるぐると同じ場所を歩き回る。そもそも、プロンプトは面と向かって彼女に自分の誕生日がいつだということを伝えていなかったのだ。彼女が知らないとしてもおかしくない。それにプロンプトだって、彼女の誕生日を知らない。付き合ってだいぶ経つというのに、基本的な情報を知らないままだったのだ。実は、彼女の誕生日が自分と付き合ってからとっくに過ぎ去っているのではないのか。失態を犯しているかもしれないことに気づいたプロンプトは、再びベッドに戻ると枕に顔を埋めて叫び声を上げる。彼女の好きな物も、嫌いな物も、キスをする時の顔も、身体を重ねた時の表情や仕草だって知っているというのに、誕生日だけは知らなかった。プロンプトは、相当なショックを受けたまま、目を閉じるのだった。 夜から朝方にかけて、何度も眠ったり目を覚ましたりを繰り返したプロンプトがようやくベッドから起き上がったのは、インターフォンの音が聞こえたからであった。寝ぼけ眼を擦りながら、かったるい返事をする彼は玄関の扉を開ける。するとそこには、ノクティスが立っていて、一気に甘い香りが家の中へと吹き込んだ。 「イグニスが作った」 「……へ?」 「プロンプト、誕生日おめでとな」 「ノクト……ありがと」 休日だというのに、プロンプトの友人は顔を見せた。そんな王子の手には箱が乗せられている。甘い匂いの正体はこれか、とプロンプトは勘を働かせる。受け取ったことを確認したノクティスがあまりにも早く背中を向けたので、少し上がっていってよと言おうとしたプロンプトは息を呑む。ノクティスと入れ替わるようにやって来たのは、ナマエであったからだ。背中を向けたまま、ヒラヒラと手を振って去って行く彼は本当に用件だけを済ませたのであった。 ナマエは、プロンプトの前に立つ。彼女にとって二度目の訪問となる彼の家は、この前と同じくプロンプトしかいない。一方、寝起き姿のままのプロンプトは大慌てだった。寝癖も整えていない、服装も適当なもの、部屋も少し散らかっている。玄関に招き入れた彼女に、少し待っててと言って一目散に自室へ戻ると、服を着替え、部屋を片付け、洗面所で髪型をセットした。まさか、彼女が直接やって来るなど夢にも思わなかったのだ。歯を磨きながらプロンプトは鏡の中を覗き込む。彼女は確かに来たが、誕生日を祝いに来たわけではないかもしれない。もしかしたら、単に遊びに来た可能性も浮上する。せっかくの休みだからとデートに誘いに来たことも考えられる。櫛を元の位置に差し込むと、プロンプトはいくつもの予想を頭の中にぎゅうぎゅうに詰めて、玄関へと向かった。 お邪魔しますと言った彼女は、この間よりも厚い上着を脱いだ。今日の快晴には似合わないものに思えたが、実際外に出てみるとそのくらいに防寒が必要なのだ。イグニスの作ったという菓子を並べ、彼女用のコップにお茶を注ぐ。小さな鞄の中に手を入れている彼女はありがとうと言いながらも、その手を休めない。日中も冷え込むようになってきたために、彼女の薄着姿というのは既に貴重と言ってもいい。見慣れていたはずの姿が、少し隠されただけでこんなにも違う印象を与える。首元が大きく空いていて、鎖骨が見えているところを視界から外しながら、プロンプトは自分用のお茶を一気に飲み干した。 ナマエが取り出したのは、ラッピングされた袋だった。何も言わずにプロンプトの前に差し出した彼女は、受け取って欲しいと目で彼に訴える。少し悴んだ手に触れるようにして受け取ったプロンプトはテーブルの上にその袋を置くと、ナマエが戻そうとした両手を絡め取るようにして逃がさなかった。ひんやりとした冷たさは反対にプロンプトを襲い、あっという間に吸収されてしまう。無言のまま握った手は次第に、殺されてしまった冷たさを埋めていくように熱を分け合った。ナマエは、握られた手にただただ大人しい。部屋に暖房を入れているおかげもあって、数分後にはすっかり二人は元の温かさを取り戻していた。 お茶を飲む彼女の様子を見ながら、プロンプトは袋の紐を解いていく。その中から顔を最初に覗かせたのはチョコボのちいさなぬいぐるみであった。綺麗に包装されている袋を見てから、彼は誕生日を祝ってもらえるのではないかと期待を抱いていたが、それが確信に変わる。このぬいぐるみは彼が欲しいと、ナマエに言ったことがあったのだ。顔を上げると、まだあるからねと彼女は言う。続けて、プロンプトの手で取り出されたのは、写真立てであった。最近撮ったばかりの写真が既に入っている。 「お誕生日おめでとう、プロンプトくん」 にっこりと笑った彼女をぎゅっと抱きしめるのに時間はかからなかった。テーブルにチョコボのぬいぐるみと写真立てを並べたプロンプトが、すぐさま起こした行動だった。プレゼントまで用意していた彼女は、わっと声を上げながらプロンプトを受け止めたつもりだったが、その勢いに負けて床に転がされてしまう。その拍子に、胸元が見えそうなくらいにニットが下がった。緩めの洋服は何かと守りが甘いのだ。柔らかい雰囲気を醸し出すにはうってつけの物ではあるが、ガードは固くない。ふう、と吐かれたプロンプトの息が見えてしまった胸元にかかる。 「ナマエちゃん、本当に、ありがと!」 ホッとした途端に、じんわりと滲む涙は彼女にプロンプトが心の底から喜んでいることを物語る。言葉でも、表情でも伝えてくる彼の涙を指で拭うと、ナマエはプロンプトの手をちょうど胸元辺りに引っ掛ける。このまま、少しでも引っ張ってしまえば隠されたものが見えてしまうだろう。彼女は、三つ目のプレゼントと恥ずかしそうに呟いた。あまりにも大胆な行動に、衝撃が走ったのはプロンプトの方である。まさか、と呟いた彼は彼女の方へとグッと引き寄せられた。 しばらくキスを交わした二人は場所を変える。雪崩れ込んだのは、もちろんプロンプトのベッドだ。チョコボの顔をこちらに向けるべきではなかったと彼は後悔しつつも、もうそれを視界に入れないようにして彼女のニットをまた少しだけずらす。肩が見えて、続いてブラの紐までが見える。この前とは違う種類の物だと直感的に分かってしまった彼は、胸元のある一ヵ所が赤くなっていることに気づいた。 「これ……どうしたの」 「……えっ、これはあの、ね」 「ナマエちゃん?」 「……ぷ、プロンプトくんがこの前、付けたでしょ!」 別の男かと疑いそうになった自分が恥ずかしく、プロンプトはその赤にくちびるをくっつける。付けた犯人が自分自身だったことを忘れてしまっていたのは、この前の行為に相当夢中になっていたからであろう。そのくらいに、彼女に溺れてしまっているらしい。服を脱がす前にいつも彼が使っている毛布をナマエに掛けると、もう一度彼女の身体を抱きしめる。しあわせな誕生日をどうもありがとう、そう呟いたプロンプトはゆっくりと目を閉じた。 |