*後半少し注意 「ねえ、ナマエちゃん」 「どうかしたの?」 「えっと……今度の休みの日、勉強教えて欲しいなって」 「え!」 「なんでそんなにびっくりするの〜」 「真面目な話だったから……」 「ちょっとそれどういう意味!?」 夕日が眩しい帰り道。もうすぐでわたしの家に到着するというところで、プロンプトくんがわたしの顔を覗き込む。勉強に関しては、一応努力しているつもりなのでそこそこは教えられる自信があった。でも、よりによってプロンプトくんに勉強を教えて欲しいと頼まれるなんて。驚いた拍子に出た素直な返事は、彼の機嫌をちょっぴり損ねてしまったらしい。ふふ、と笑った後にいいよと続ければ、プロンプトくんがわたしの前に立ちはだかる。もう、わたしの家は門をくぐれば、すぐそこだ。 「本当に……いいの?」 「うん。もちろんいいよ」 勉強会は学生の中ではイベントのひとつだろう。特に気にすることもないのに。プロンプトくんが聞いてきたクセに、了承の返事をした後からうーん、とか、あー、とか言葉にならない唸りをあげる意味が分からなくて、わたしは彼の隣を通り過ぎる。そういえば、次の休みの日って言ったけど、それって明日のことだ。明日は学校が休みで、おまけにテスト前なのだ。学生のみんなが追い詰められる日に間違いない。そのひとりがプロンプトくんだろう。わたしは別段焦ってなんていなかった。いつも通り対策をしておけば、ある程度の点数は取れる。それに、勉学だけは彼に対してわたしが唯一誇れるはずである。王子様も、今日の帰り際にプロンプトくんと話しているのを見かけたけれど、彼もまた、いつも通りだった。王子様もテストは余裕なのだろう。 「じゃあ、また明日ね。プロンプトくん。明日、わたしがお家に行くから」 わたしのお家で勉強会をしてもいいのだけれど、いつもいつも送ってもらう側だから今回はわたしがプロンプトくんのお家に行きたい。教えてもらったプロンプトくんのお家は覚えているし、わざわざ彼が迎えに来なくても大丈夫だ。帰り道を毎日遠回りさせてしまっているのが気になって仕方なかったから、ここはわたしが歩いていくべきだと思う。玄関前でプロンプトくんに手を振れば、さっきから挙動不審な彼が素っ頓狂な声をあげる。驚いたわたしは、慌ててくちびるの前で人差し指を立てた。お家に親やお兄ちゃんもいるのだから、奇声を発するのだけはやめて欲しい。それじゃあね、と再度手を振ったわたしは、ただいまと言いながら玄関の扉を開けた。 「お邪魔します」 「う、うん、オレの他に誰もいないけど……」 「はい。お菓子持ってきたよ」 「あ、ありがと」 「でもプロンプトくん食べないもんね。太る〜って言って」 インターホンを押すと、恐る恐る顔を覗かせた彼がゆっくりと扉を開けて中へと招いてくれた。顔色があまり良くないように見えた気がして、体調は大丈夫なのと尋ねれば、元気なのは元気、とどこか焦ったような声が聞こえる。無理をしているのではないかと心配だったけれど、プロンプトくんに押し込まれるように部屋に入れられた。オレは飲み物持ってくるから、適当に座っててとドアの向こうから言葉が飛んでくる。勉強をするためのテーブルの上には、教科書とノートが山積みにされていた。こんなに使っていたら効率が悪いよと言いたくなるくらい。二つ置かれたクッションのうち、暗い方の色を借りるとわたしはそこに座った。 ゆっくりと彼の部屋を見渡した時、初めて気づいたことがある。そうだ、わたしとプロンプトくんは俗に言う恋人同士で、お家には今わたしたち以外誰もいない。そして、プロンプトくんにはわたしと勉強がしたいと言った時から違和感を抱いている。そこから導き出される予想に、思わず立ち上がってしまった。もしかして、まさか。そのタイミングで、彼がドアをノックして入ってくる。ばっちりと合った瞳が、揺れている。 「ど、どうしたの」 「えっ、あっ、なんでもないの……!えっと、あの、カメラがあるなって」 「カメラ?あ!せっかくだから写真撮ろっか〜」 咄嗟に目に入ったカメラの話題を振ったわたしは、あからさますぎる自分の行動を恥じた。プロンプトくんの思っていることに気づいたという合図を思いっきり出していただろう。恋人同士なのだから、いずれはそういう関係を持つ。好き合っている二人だったら、自然なはずだ。でも、そう自分に言い聞かせたところで、現実を受け入れるというのは違う。自然なことであっても、いざ自分にその状況が降りかかった時は別なのだ。 飲み物をテーブルに置いたプロンプトくんは、カメラの機能を弄り始める。ソワソワとしたその様子は、しっかりとわたしにまで伝染していた。タイマーやら、カメラの設置場所やら彼がわたしに相談してきていたけれど、もう考えることもできずにひたすら肯定の返事をする。積み上げられた教科書やノートをせっせと床に下ろしたプロンプトくんはその上にカメラを置くと、わたしを誘導した。ベッドに寄りかかるように座って欲しいという。ベッドという言葉に過剰反応しながらも、心の中では寄り掛かるだけならセーフ、セーフと言い聞かせる。スイッチを押したプロンプトくんが、素早くわたしの隣に座る。写真を撮るというのに、カメラの向けられた中心から少し離れた、どこか遠慮したような距離を取っていたわたしの肩をぐいっと彼が抱く。急に引き寄せられて、ぴったりとくっついたプロンプトくんのせいでわたしはどんな表情をしたのか全く分からなかった。自分の表情を考える余裕なんてない。触れられている部分が、火でも近づけられたように熱いのだ。シャッター音が鳴ったあともその手を離さそうとしない彼に、なんと言葉を投げ掛けていいか分からない。 「ナマエちゃん……」 片方の肩だけではなく、もう一方の肩も掴まれたわたしは小さく悲鳴を上げる。プロンプトくんはわたしを背中から抱き込むようにして、両足を伸ばす。わたしからは彼の姿は見えない。足の間に挟まれて動けない。大きく吐いた息が、首元を掠める。ゾクゾクと、背中を痺れが駆け抜けた。心臓が今までにないくらいの速さで動いている。呼吸のテンポもそれに引っ張られたように、おかしい。ゆっくりと肩から手が下ろされたかと思えば、胸の下辺りに手が回ってきて、更にぐっと抱かれる。彼の腕に、確実に胸が当たっている。直接触られているわけではないけれど、妙に恥ずかしいし、くすぐったい。それに、さっきからお腹の下の辺りが、変な感じだ。プロンプトくんが触ってきてから、ずっと。 「……ナマエちゃん、あの」 「う、うん……」 「……わかる?」 わたしに当たるプロンプトくんの身体で、一際熱い部分があることに気づいていたわたしは、彼が尋ねてきたことに対してゆっくりと頷いた。下着、かわいいのつけてきたかな。この服、脱がせにくくないかな。なんて普段なら絶対考えないようなことが、瞬時に頭を過っていく。つまり、わたしは心の中でどこか期待をしているのだ。プロンプトくんがわたしを欲してくれるのは嬉しいし、そう、自分だって彼が欲しいと思っている。 吐息が色っぽい。首筋をなぞる生温かいそれは、生き物のように這い続ける。胸下にあったはずの手は、上を目指して動き始める。形を確かめるように優しく触れるその手に、思わずストップをかけるように自分の手を重ねるけれど、力の篭っていないそれは無駄だった。指が不規則な動きで、柔らかい物を堪能するように踊る。与えられる刺激に我慢できず、身体を捩じらせるけれど、決して逃がしてはくれない。 「我慢、しないで」 「……っ、あ」 「オレも我慢しないから」 |