「プロンプト」 「どしたの〜?」 「……寝不足なのか?目の下のクマが気になっていた」 「さすがイグニス!大正解〜、旅に出るって思ったら寝られなくてさ」 乾いた空気が、喉をカラカラとさせる。車の行き交う音と、作業の機械音が響くハンマーヘッドでシドたちにレガリアを預けた彼らは、お使いを頼まれていた。その前に腹ごしらえをしようぜというグラディオの提案のもと、残り少ない食料でイグニスが簡素な料理を作っていた。男四人ともなると、食料が減っていくのは本当にあっという間のことだった。彼らは金もなければ、食べ物も底を尽きようとしている。イグニスは頭を抱えながらも、自身のメモしているレシピに目を通して、あと何が作れるだろうかと思案する。握りたての握り飯を手に持つが、一向に口にしようとしないプロンプトはぼんやりと雲の流れを観察しているようだった。目の前にレシピを見ながら腰掛けたイグニスは、ずっと気になっていたことを指摘する。 「旅行じゃねえんだぞ」 「分かってるよ〜。それにしてもさ、シドニー!なんていうか……」 空から視線を落とし、先程シドニーと会話をした場所を見つめるプロンプトは、大きく溜め息をつく。早速、恋煩いかと彼を小突くグラディオは大きな口の中に握り飯を放り込んだ。吸い込まれるように、米の塊は一瞬で彼の腹の中へ消えていく。しかし、グラディオの腹が満たされるわけがなく、他に食べ物はないのかと嘆いている。そんな彼を余所に、イグニスは眼鏡の位置を正しながら、横にいるノクトにこっそり耳打ちをする。お前はどう思う、そう彼は尋ねるが、ノクトは咀嚼を止めることなく無言を貫き続けた。学生時代からの付き合いであるノクトであれば、プロンプトのことをよく理解していると思ったイグニスだったが、王子の黙り込みに深く追及することはしなかった。プロンプトはああ言ってはいたが、絶対に他に理由があるはずだ。そう直感していたイグニスはとりあえず様子を見ることにしようと、近くにあったエボニーコーヒーに口を付ける。 ノクトはイグニスの指摘以前に、プロンプトの様子が変であることに気づいていた。理由もおおよそ見当がついていたものの、こればかりは本人たち同士の問題だからと思うと口を出せなかったのである。オルティシエまでの旅に、プロンプトも同行することが決まった時に、一度だけ彼がノクトに相談を持ち掛けたことがあった。それも、出発がもうそこまで迫っていた時期に、だ。ナマエちゃんのこと、もしノクトだったら、オレと同じ立場だったら、どうすると聞かれた。アドバイスが咄嗟に浮かばないノクトは、プロンプトが信じたことを貫けばいいんじゃねえの、と彼に返した。曖昧な答えしか出せなかったのは、良いと思えるアドバイスが思いつかないことも勿論あったが、明確な答えを返すことは責任も伴うということが一番だった。それを充分に分かっていたからこそ、ノクトはそういう言葉を返したのだ。それに、なんでも話せる間柄であるとはいえ、プロンプトがイグニスやグラディオに彼女の存在を伝えていないことも相俟って、ノクトはこの場で切り出すことはできずにいた。 凶暴な魔物を倒して欲しいと頼まれたノクトたちは、標で休息をとることにした。日も既に落ちている上に、四人の体力も万全とはいえなかったからである。更に言えば、ここにいるのは戦闘慣れしている者ばかりではない。 黒のカーテンを引かれた空には、小さな星が煌く。雲のない夜空は、月光がやけに眩しく見えた。食事の用意をするイグニス、雑誌を読み耽っているグラディオを確認したノクトは、武器を磨いているプロンプトの肩を叩く。携帯を触っている姿は見たものの、それはゲームをするためであり、誰かと連絡を取っている様子はなかった。ノクトを見たプロンプトの瞳が一瞬泳ぐ。今から聞かれることをなんとなく彼なりに察したようで、下唇をギュッと噛んでいた。 イグニスとグラディオから少し離れた場所に腰を下ろしたノクトは、なかなか座ろうとしないプロンプトのズボンを引っ張る。座るように促したのだ。喋りたくないというオーラをひしひしと感じるところから、あまりいい結果にはならなかったことが伺えたが、それでもノクトは聞かなくてはならないと思った。プロンプトたちの問題とはいえ、彼自身も少し踏み入っている事柄だったからだ。 「プロンプト」 「なっ、なに〜?」 「どうなったんだよ」 「……なんのことかな〜?」 「痛々しいってイグニスも言ってたし、オレもそう思う」 「イグニスには話してないよね!?」 「声がでけーって。静かにしろ、言ってないから」 「うっ、ゴメン」 「で?」 「……別れた」 「はあ!?」 「ノクトこそ声大きいってば!」 「悪い……なんで」 「別れたっていうよりは、突き放した、の方が正しい……かな。オレはさ、生きて戻れる自信なんてないし、現に今だって、みんなのお荷物になってるかもじゃん。みんなはずっと訓練を受けてきた人だけど、オレが武器を手に取ったのって、まだほんの少しの時間だよ……それに、ナマエちゃんにいつまでも待っててなんて言えない。もし、もし、帰れなかった時に辛い思いをさせるのはイヤなんだ」 「……でも、オルティシエまでだろ」 「それでも、一般人が外に出るってことは命の保証なんてない。そうでしょ?それなら、オレのことなんて忘れてくれた方が、お互いにとっていいんだよ」 「プロンプトはそれでいいのか」 「うん、オレはそう決めたから」 決心した割には吹っ切れていない表情であったが、ノクトはそれ以上何も言わなかった。というよりも、何も言えなかった。確かにオルティシエまでの短い旅で、イグニスやグラディオもいるが、いつどこで命を落とすかも分からない。勿論、全員が互いに互いをカバーすることで命を守りはするが、それでもノクトが保証することはできない。それに、王子を守ることが彼らは一番の宿命だと考えているはずだった。だからこそ、プロンプトに何も言えなかった。ナマエの気持ちも考えてやれ、と言いたかったが、待つ方も気が気でないであろうし、万が一のことがあって帰らぬ人を待ち続けるというのは残された方も酷く心を痛めることだ。プロンプトの言い分も、分からないわけではなかった。 「ノクト、プロンプト、飯ができたぞ」 「……ノクト」 「ん」 「ありがと。でも、もう大丈夫だから」 どこがだよ、と小さく呟いたノクトの言葉は、今日収穫した材料と魔物の肉で作られた料理を大絶賛するグラディオの大きな声によって掻き消される。プロンプトが無理をしているのは、きっとここの誰もが気づいていることであり、グラディオもそう感じているからこそ、普通にしていることはノクトもよく分かっていた。私情よりも自分たちに課せられた使命を全うするつもりなのだ。無理をする原因になったことはもちろん、まだノクトしか知らないことではあるが。 イグニスの料理が並んだ組み立て式のテーブルからは、腹の虫を擽るような香りが立ち込めている。昼間、倒した魔物の肉を使ったその料理はイグニスがレシピを練っていたものだ。プロンプトの無理をした、乾いた笑いがその場を包む。ノクトは重い腰を上げると、手招きをする彼の元へと歩いて行った。 |