ノクティスは旅の途中で、気づいていたことがある。彼がプロンプト以外の二人に気づいたことについて話をしたところ、口を揃えて、そっとしておけと言われたのだった。自分よりも年上の彼らが言うのだから、そうするべきなのかと納得したのである。しかし、その日の夜、皆が気づいていながらも口にしなかった話題に触れたのは当の本人だった。 「あの……」 「なんだ、プロンプト」 「オレ、今、ちょっとずつお金貯めてるんだけど」 「……あ」 「ノクト」 「あの、さ……みんなナマエちゃん覚えてる?」 「ああ、覚えている。真面目に、いや、一生懸命に仕事をしているのが印象的だったな」 「で、そのナマエと金の関係は」 「オレも知りたい」 「だーかーらー、それを今相談しようと思って!」 「ノクト、グラディオ、急かす気持ちは分かるがプロンプトの話を聞こう」 「ありがと、イグニス」 プロンプトの話の内容は至ってシンプルなものであった。端的に言うと、今度の特別な日にナマエという少女をデートに誘いたいということだった。グラディオラスは大体予想が当たっていたらしく、終始プロンプトをからかうように口を挟む。どうやってデートに誘えばいいと思う、という純粋な質問に対してノクティスが普通に誘えばいいだろと返す。普通ってなに、普通って、とプロンプトはその場でぐるぐると忙しなく歩き回る。普通に誘うことができるのなら、彼が三人に相談することはないだろう。賑やかなキャンプが、彼の話題のせいでいつもよりも大盛り上がりであった。その最中、巧みな包丁テクニックで魔物の肉を捌きながら、イグニスが提案をする。いつも、世話になっている礼として御馳走したいと言ってはどうかと。さすがイグニスと言いたげに三人が、彼の方へと向く。中心で大きく燃える火が、パチパチと音を立てて、暗くなり始めた空へと舞い上がっていった。 「ナマエちゃん」 「あ、プロンプトくん!」 プロンプトは朝から茶化してくるイグニス以外の二人を押し退けるように、キャンプ地を飛び出した。イグニスがわざわざ作ってくれた菓子と、コツコツ貯めてきたギルを持ったプロンプトの足取りは最初こそ軽かったが、目的地が近づくにつれてどんどん重くなっていく。もし、断られたらどうしようという不安でいっぱいであることが足取りに表れているのだった。なんとか平静を装った彼は、片手を振りながらナマエに近づく。接近した後にようやく気が付いたことではあったが、彼女の服装がいつも違うのだ。どこかに出掛けるような服装で、普段仕事をする姿とは思いっきり違う。見慣れない姿に心臓を跳ねさせたプロンプトだったが、イグニスの言葉を思い出して、ゆっくりと息を吸い込んだ。 「待ってたの」 「えっ!?」 「ノクティス様に、今日は出掛ける用意をしておいてくれって言われたの。グラディオさんが、店長にお休みをお願いしちゃうし。それで、皆さんは?」 自分の計画と全く違うところで、事が動き始めていることを察したプロンプトは、がっくりと肩を落とした。スマートに誘って、自分が紳士的であることをアピールしようと思っていたものだから、早速台無しである。仲間たちは気を利かせてくれたつもりだろうが、プロンプトにとっては番狂わせであった。こういう時は、イグニスのようにそっと背中を押すくらいで見守っていて欲しいと頭を抱える。 「ナマエちゃん、あの……」 「うん?」 「きょ、今日は……オレと、ふたり、で」 「えっ!?ふ、ふたりって、それはもしかして」 「う、うん、デートの、つもり」 「……嬉しい!わたし、デートって今までしたことなかったの!」 明るい表情を浮かべたナマエを見たプロンプトは、ようやくひと安心することができたようで小さく息を吐く。デートという響きが心地良く、瞳をキラキラとさせる彼女はプロンプトをじっと見つめる。どこに連れて行ってくれるのかな、何をするのかな、期待の眼差しが彼に突き刺さり、それは余計にプレッシャーを与えた。ナマエの期待に応えられなかったらどうしよう、嫌われてしまうかもしれない、ひとつ安心感を得たというのに不安は尽きることなくプロンプトを襲い続ける。しかし、スタートはここからである。 ふと、自分が予約した店の場所を思い浮かべる。夜景が美しいと言われ、海が見える場所であるガーディナだ。彼女の店先でデートに誘ったのはいいが、ここからガーディナまでは結構な距離がある。チョコボで移動するには、少し遠すぎる。といって、自分が使える車があるわけではない。毎日レガリアに乗っているものだから、移動のことなど頭になかった。そのくらい、プロンプトは別のことで頭がいっぱいいっぱいであったとも言える。 「プロンプト」 不意に名前を呼ばれて振り返ると、レガリアを背に腕を組んでいるイグニスが目に入った。手招きをする彼の元へ、プロンプトはナマエを連れて移動する。耳を貸せと言うイグニスにおとなしく従うと、彼は小さな声で喋り始める。ここから、ガーディナの近くまでレガリアで乗せていく。近くで降ろすから、そこからはチョコボで行けと言う。彼女には、料理の材料調達のついでとでも説明しておけばいい、とプロンプトの肩を叩く。イグニスは本当に助けて欲しいところでいつも助けてくれるのだった。 「イグニスが、材料調達のついでに乗せていってくれるって」 「わあ……!ありがとう、イグニスさん」 「いや。感謝されるほどではないな」 「ナマエちゃん乗って乗って、後ろの席」 「……プロンプト、お前も後部座席に乗れ」 「う、うん!そのくらい分かってるってば」 「ありがとう、チョコボ〜」 「プロンプトくんは本当にチョコボがすきなんだね」 穏やかに波が打ち寄せる場所までチョコボに揺られてきた二人は、砂浜で足を降ろす。ナマエはチョコボの頭をひと撫でしながら、気持ち良さそうに瞳を細めるチョコボに向かって笑う。そんな横顔を盗み見たプロンプトは、シャッターチャンスだったなあと思いつつも自分の心の中だけにしまっておきたいものだから、写真に残す必要はないかと遠くを見つめた。この時間そのものが夢のようで仕方ないのだ。ナマエが隣で笑う、ただそれだけのことが無性に嬉しく、心が躍るのである。 彼女をエスコートとしようと必死なプロンプトは、店へと続く橋をゆっくりと渡る。ナマエの歩幅を考えて、いつもの自分のスピードを抑えて。それに、海を見つめる彼女の瞳は初めての物を見たようで、吸い込まれてしまいそうだった。仕事の時は、懸命に取り組む姿しか見ることはできなかったが、こうやって無防備な姿を見ることができる。プロンプトは無意識のうちに、自分の拳をぎゅっと握っていた。もう、自分が彼女の虜になっていることだけは自覚しながら。 予約席へと通されたプロンプトは緊張しながらも、彼女の座る椅子を引く。どうぞ、と言った声が若干上擦っていたものの、彼女は特に何も指摘しなかった。感謝の意を述べたあと、ニコリと笑っただけである。たったそれだけだが、メニュー表を開いたプロンプトの頭には文字なんてひとつも入ってこなかった。ナマエは豪華な料理が並ぶメニュー表を見ながら、写真の端に小さく書かれた値段に目を見開く。デートに連れて行ってくれると言った彼に着いて来たはいいが、こんなにも値段が張るなんて聞いていなかったからである。 「ナマエちゃん、今日はオレが御馳走するから、なんでもすきなもの頼んでよ」 「え、でも……」 「いいんだ。オレがキミに御馳走したいだけだから」 「……本当にいいの?」 「うん。あの、それからお願いがひとつあるんだけど」 「こんなに素敵な御馳走してもらうんだから、わたしにできることなら、なんでも!」 「ありがと。あのさ、オレと、しゃ、写真を撮って欲しい……なんて!」 「それだけでいいの?」 「え!?じゃ、じゃあ、ナマエちゃんの写真撮ってもいい?」 「わたしの写真でよければ、もちろん」 |