クリスマスだからといって速瀬くんに時間があるわけではない。強豪サッカー部に所属する速瀬くんは、それはもう忙しい毎日だった。冬休みに入ったところで、部活の時間がいつもよりも長くなるだけで、休みの時間が増えるわけではない。クリスマスも時間を作れなくてごめんな、と謝られたけれど、わたしは別に怒らないし、むしろサッカーに頑張って欲しいと思うばかりだ。あんなに打ち込める事があって羨ましいのだから。それに、わたしは速瀬くんのプレイを見るのがとても好きだ。本人には恥ずかしくて言ったことはないけれど、よく試合を見に来ていることに気づいている臼井くんには見抜かれている。名前は、速瀬のことばかり見ているな、と。 クリスマスというと、いろんな過ごし方があるけれど、今年は恋人のいる初めてのクリスマスだった。速瀬くんも同様で、彼はほんの少しでもいいから恋人のクリスマスを味わいたいらしい。だから、わたしは部活帰りの速瀬くんを公園で待っている。昨日、どうしても会いたいとメールが来たからだ。椅子に座って、テーブル越しに空いたもうひとつの椅子と睨めっこをする。部活は本当にあの時間に終わるのだろうか。 「名前!」 「速瀬くん」 「待たせた。ごめん」 「ううん、大丈夫」 「それより、手、出して」 部活で使うものが詰まった鞄を漁る速瀬くんは髪の毛を結んでいなかった。サラサラと冷たい風に揺られて、星空の綺麗な下で靡く。女の人みたい。横顔も整っているので、ひどくそう感じた。速瀬くんはわたしの差し出した手を見ながら笑う。 「違う違う、反対」 速瀬くんに掴まれた手がひっくり返される。手を出してと言われたので、何か貰えるのかなと勝手に期待を抱いていたのだけれど、そうではないらしい。クリスマスにまさか会えるとは思ってもいなかったので、わたしは少し前に早めのクリスマスプレゼントを速瀬くんに渡していた。 「いいって言うまで、目開けるなよ。あと、両手をこのままテーブルの上に置いて動かしちゃダメだからな」 速瀬くんに言われた通りに目を瞑る。サプライズを仕掛けるにしては、手の内を明かしすぎていると思うので、たぶん違う。速瀬くんなりにプレゼントをくれるのだとは思うけれど、一体どういうことだろう。全く予想のつかないわたしは、その時、冷える指先に何かが触れるのを感じた。速瀬くん、ではない。彼だったら、もっとあたたかいだろう。指の辺りで何かが動いているのだけど、速瀬くんがいいって言うまでは目を開けられないし、手も動かせない。見えない世界で何が起こっているのだろうか。 どのくらいの時間、目を瞑っていたのか分からない。ふと、頬に冷たいものが当たって、思わず悲鳴をあげると途端に速瀬くんの笑い声が聞こえてくる。 「雪が、降ってきた」 ホワイトクリスマス。なんて言葉が頭が過ぎった瞬間に、わたしのくちびるに何か生温かい物が音を立てて、くっついては離れた。もういいよ、という速瀬くんの言葉で瞼を上げれば、ふわふわと舞う雪の中で彼が肩肘をついて微笑んでいる。目が合った時に、速瀬くんの舌が少しだけ顔を覗かせた。やっぱり、さっきのはキスで間違いない。 「名前、メリークリスマス!これ、プレゼントな」 わたしの両手を取った速瀬くんにありがとう、と言いながら自分の手に目を落とせば、星空にも負けないくらい輝く色が並んでいた。まるで、別の人の手のよう。自分の手ではないように見えた。器用な速瀬くんだからこそ、できることなのかもしれない。箱にたくさん入っているマニキュアに目を落とせば、自然と口から嬉しいの言葉が零れた。 「今年の新色だってさ」 「……また、塗ってくれる?」 「名前が塗って欲しいなら、もちろん、な」 |