*DFF設定 異世界に飛ばされたらしい。スコールがそう言っていた。見たこともない人間と、その人たちの敵と、そしてわたしたちの敵。そして、どうやら異世界に飛ばされてきた仲間は、スコールだけらしい。学園にいた頃はライバルがたくさんいたけれど、今なら彼を独り占めできちゃうかも、なんて軽率な考えはすぐに砕かれる。相変わらず彼は素っ気ないし、この世界で仲間になったバッツとジタンという人がやたらと邪魔をしてくるのだ。本人たちにそのつもりはないのかもしれないけれど、わたしが入り込む隙を悉く潰している。今日も何回潰されたことか。彼らを威嚇するものの、わたしのちっぽけなそれでは通用しないらしく、むしろ遊ばれていると言った方がしっくりくるかもしれない。 学園である人を好きになって恋人になれそうと思ったのに、実はその人に彼女がいて、遊ばれていたなんて気づいた時には、学園長がすっ飛んでくるくらいには学内で行き場のない思いを叫んでいた。自暴自棄になりかけて、踏み留まった時に見かけたのが彼、スコールだった。一つの事で失敗をしたけれど、わたしはいつでも元気で明るくいなきゃダメと思ったから、次のステップへと踏み出すと決心した矢先のこと。クヨクヨして無駄な時間を過ごすのは負けだ。あの男は最低な奴だから、さっさと忘れよう。一匹狼のようなクールさを醸し出した彼は学園内でもすぐに話題になっていたから、よく知っている。顔が整っているというのは、誰もが思うことだろう。そこから猛アタックを始めたなあ、なんて思い返していれば、頬に小さな痛みが走る。バッツが引っ張っていたのだった。 「変な顔してるぞ」 「……な!」 楽しそうに頬を餅のように引っ張って伸ばすバッツ。正直、とても痛い。いくら伸縮性がいいとか、触り心地がいいからといって、そこまで人の顔で遊ぶなんて酷い。わたしはか弱い乙女なのよ、という似合わない台詞を思いついたが、それは心の中に留めておくことにする。彼に言ったところで、この状況が好転するとは思えなかったのだ。 バッツに抵抗していると、彼の向こう側にスコールが座り込んでいるのが見えた。今は、誰もいない。隣に座るチャンス。ジタンは見当たらないし、バッツさえ振り払えれば、こっちのものだ。最近ずっと二人に邪魔をされてきて、スコールに近づくことすら叶わなかったのだから、このくらい助けて欲しい、神様。 「このっ」 「おっと!」 ひらり、と風の舞う如く軽々と避けたバッツの反射神経には目を見張るものがあるが、正直わたしはそれどころではないのだ。必死にバッツを振り払って、スコールへ近づくための道を確保しなくてはならない。延々と彼に近づけない毎日を繰り返すのはごめんなのだ。自分から行動しなくては、何も変わらないことをわたしは前回学んだ。ずっと受け身の姿勢でいたから、気づけなかったことがある。今度は、わたしから。 勢いよく走り出したわたしに驚いたバッツが咄嗟に道を開けてくれたのはラッキーだった。障害物をひとつ取り除けたのは大きい。順調と思って、一目散に駆けだしたところ、神はわたしに味方をしていないようで、タイミングが合わずに縺れた足のせいで空中に放り出されるような形になる。鈍い音が響き渡れば、バッツの高らかな笑い声が嫌な程に聞こえた。やってしまった、と地面から顔を上げれば、光が差しているには少し暗かった。さっきはもっと明るかったはず。わたしの視界に、見覚えのある靴や服が目に入る。誰かに見下ろされているのはすぐに分かったけれど、変な冷や汗がわたしの背中を伝う。その誰かにピンと来るものがあったからだ。 「……名前、静かにしてくれ」 ふわり、と浮き上がる身体に頭がついていかない。わたしは何もしてないのに、いつの間にか地面にしっかりと足をつけて、その場に立っていたのだ。スコールが雑ではあるが、引っ張り上げてくれたという事実を受け止めるまでには相当な時間を要した。口では注意を促しているくせに、こういう優しい面も見せるのだから狡い男だ。クールな人ではないのか。学園では知ることのなかった一面を知ってしまって、舞い上がったものの、この世界での記憶は消えてしまうという話を聞いていたから、なんだかちょっと悔しい。 くるり、と方向転換したスコールは何もなかったかのように静かに歩いて行った。いつもあの背中を追いかけていくのに、突然起こった事を未だに信じられなくて、足が動かない。すると、ぽんぽん、と両肩が叩かれる。右を見て、左を見て、大きく溜め息をつく。ああ、君たちね。 「名前、久しぶりにスコールに構ってもらえたな!」 「ばっちり見てたぜ」 「……そう」 振り向いてもらえる保証なんて、どこにもないけれど、救いの手を差し伸べてくれたということは少し期待を持ってもいいのかもしれない。というか、もうこの際、勘違いをしてしまおうか。長い道のりの途中なのだから、ちょっとくらい楽しい思いをしてもバチは当たらないはず。 Title:さよならの惑星 Image song:ロマンスの途中/Juice=Juice |