この時間にしては電車が混み合っているようで、エスカレーターで駅のホームに向かえば、乗り込み待ちの長い列ができていた。一番近い列に向かってタケルくんが歩いて行ったのを見たわたしは、彼のあとについていく。何度か振り返るタケルくんはきっと、はぐれていないか確認してくれているのだろう。電車に乗り込めば、ちょうど二人分の席が空いているのを見つけたであろう彼が、わたしと目を合わせた。言葉はそこになかったけれど、ここに座ろうという彼の無言のアピールだ。
電車の扉が閉まって、動き始めた車内ではつり革に捕まってスマホを見ている人、新聞を読んでいる人、目を閉じて眠りにつこうとしている人、ヘッドフォンで音楽を聴いている人と、様々な人がいる。偶然、同じ時間の同じ車両に乗り合わせだけの集団で、個々が別のことをしている。
わたしたちが座っている席は端っこの二つの席であり、一列に数人掛けることのできるロングシートはほぼ空間を残していない。となると、必然的に隣の人とは触れ合うこともある。微妙な距離を保ったままでいるのはなかなか難しいから、もちろんわたしも肩が隣の人と当たるだろう。ただ、タケルくんが一番端を譲ってくれたために、わたしの左肩は誰とも触れ合うことはない。ガタンゴトン、絵本で描かれる音がそのまま聞こえてくる。揺れる電車の中で、右肩がタケルくんの肩の少し下に当たる。電車に乗っていれば、当たり前に起こることだけれど、今日隣に座っているのはタケルくんだ。知らない人ではないからこそ、意識をしてしまう。ちらり、とタケルくんの方を見た瞬間に電車が大きく揺れる。彼の腕がわたしの前を通過して、手摺りへと伸びていく。それがタケルくんの右腕だったこともあり、わたしたちは至近距離で見つめ合うような形になっていた。



「あ……っと、すまない」
「う、うん」



いくらかわたしよりも背の高いタケルくんが覗き込んでいる。目が合った瞬間に、お互いに顔を背けて、彼は自分の定位置へと身体を戻した。顔が近くにあるということはこんなにも緊張する。肩が触れ合っていた時よりも、早い鼓動がわたしに分かりやすく知らせていた。
車内にアナウンスが流れる。この先、強い揺れがありますのでご注意ください、と。もう少し早くそのことを聞きたかったような、そうでないような。もう一度タケルくんを盗み見れば、両手で顔を覆って下を向いていた。彼の瞳よりも濃い、深い海のような色の髪の毛が目に入る。そして薄い赤色が耳をじわじわと染め上げている。肌色を侵食していく別の色。思わず、わたしも自分の両頬を押さえた。あつい。熱が篭っているのは自分も同じらしい。きっと、わたしたちは赤面して隣に座っているのだろう。はずかしくて、たまらない。早く、電車が目的地について欲しい。でも、隣に座っているのが嫌なわけじゃない。再度流れたアナウンスは、わたしたちの目的地よりも数個前の駅の名前を告げていた。

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