遊園地というと、ジェットコースターなどの絶叫系マシーンについつい目がいってしまう人が多いかもしれない。確かに小学校や中学校の修学旅行でテーマパークに行った時は、そういう乗り物にどのグループで挑むのかを話し合ったものだ。でも、高校生にもなると落ち着いてしまって、あまりそういう乗り物に飛びつかなくなってしまった。 タケルくんは出演した番組で遊園地のチケットを当てたらしく、最初は同じ事務所の人を誘って行く予定だったのが、いつの間にかわたしにすり替わっていた。というのも、事務所のスケジュールが急遽変更になったために、その相手が行けなくなってしまったらしい。メッセージを送ってきたタケルくんに何も考えずに、楽しみにしているね、なんて送ってしまったけれど、年頃の男女がこうも仲良く出掛けることは一般的に見て、名前が付けられることが多かった。でも、わたしとタケルくんは決してそういう関係ではない。友達だけど、なんだか友達という枠には収まりきれないような。 小さい頃は親に連れて来てもらって、よくメリーゴーランドに真っ先に走って行ったものだ。そんな記憶を懐かしみながら、わたしはタケルくんと一緒にたくさんの馬が並ぶメリーゴーランドの前にやって来ていた。乗り物のことを考えると、タケルくんは恥ずかしいかもしれないが、彼は文句のひとつも言わずに一緒に乗ってくれるらしい。 「弟や妹も、いつか連れてきてやりたい」 どの馬に乗ろうかなと物色していたわたしの後ろでタケルくんが呟いた。タケルくんが今アイドルをしている理由をわたしは少し聞いたことがあり、彼の弟や妹たちに関係があることも知っている。 「タケルくんなら、絶対連れて行ってあげられるよ」 「ありがとな」 前回稼働した際に、回り終わって止まったタイミングが良かったのか、あまり苦労せずとも乗れそうな高さにある馬を見つけたわたしはこれに乗るね、と彼に言う。止まっているとはいえ、馬を跨いで乗るのは少し危険もある。それが分かっているからか、タケルくんはわたしの乗ろうとする馬の傍にやって来て、そっと身体を支えてくれた。それはきっと、小さい子どもを安全に乗せてあげようというお兄ちゃん心が働いたわけであるとは思うが、その一瞬は御伽噺のお姫様にでもなったかのようだった。男の子の中でも、お世辞にもあまり大きい方とはいえないタケルくんだけれど、わたしからすれば随分大きく見える。 「大丈夫か?」 「……うん」 腕や背中を支える彼の手に意識が持っていかれて、なんだか集中できない。本当は、タケルくんはタキシードを着て、それに似合う手袋をして、わたしのためにこの馬を連れて来てくれたのではないか、なんて現実から抜け出したような夢を見る。今ここにいるタケルくんはいつも通りの格好で、わたしが何を考えているかなんてちっとも知らないのだろうけれど。 出発の合図と共に、ゆっくりと回り始めた景色。同じ場所をぐるぐると回るのに、わたしの乗っている馬の首に軽く手を置いて、その場に立ったままのタケルくんはメリーゴーランドが止まるまで一度もこちらを向くことはなかった。キラキラとした装飾も相俟って、お呼ばれした城に向かっていくような錯覚に陥る。眩しい中で、キャッキャッと小さな子どもの嬉しそうな声が聞こえた。 乗り物が完全に停止するまで降りないでください、とアナウンスが流れ、駆け回っていた馬たちが失速していく。タケルくんは相変わらず、進行方向を見つめていたけれど、完全に停止した直後にわたしを見上げるものだから、心臓が跳ねた。まだお兄ちゃんでいるつもりなのだろうか、タケルくんが両腕を広げて待っている。 「名前さん、気をつけて降りてくれ」 「分かってるよー!子どもじゃないんだから」 と言ったものの、降りる時に何かに掴まっておきたいのは自分が安心したいからだ。馬に手を置きながら降りようとすれば、タケルくんがわたしの腰あたりをぐっと掴む。声が漏れそうになって、咄嗟にくちびるを隠した。しっかりと支えられて安全に降りることができても、わたしは正直それどころではなかった。タケルくんはほっとしたように息を吐いて、何事もなかったかのように出口へ向かっていく。わたしが急いで彼の後を追おうとすれば、ちょうど後ろにいた子どもたちの会話が聞こえてくる。 「あのおにいちゃん、おうじさまみたい」 「ねー、おねえちゃんがおひめさまかなあ」 タケルくん、と背中に呼び掛ければ、マップを広げていたタケルくんがどうした、と何食わぬ顔で振り返る。そこでわたしは、大河タケルのキャッチコピーを思い出す。そう、子どもたちの指摘もわたしの想像もあながち間違いではないのだ。だって、彼は、元ボクシングリング上の王子様、と謳われているのだから。 |