「名前、ちゃんは、学校の宿題?」 「あ、はい、そうなんです。ここでさせてもらってすみません。あと、年下なので呼び捨てで構いません!」 「そうか、なら、名前。タケルから聞いているから大丈夫だぞ。それと、聞いているかもしれないが、自分は」 「円城寺道流さんですよね!あと、牙崎漣さんって方も。タケルくんから聞いてます」 「名前さん、アイツのことは……」 「そういえば、漣は今日姿を見ないな」 「道流さんって呼んでもいいですか?」 「もちろんだ」 男道ら〜めんに名前さんを連れて行ってもいいかと聞けば、円城寺さんは快く頷いてくれた。タケルの友達なら大歓迎だと言う。彼女に円城寺さんの許可を貰ったことを伝えると、それでもどこか行き辛いという顔をしていた。休日の男道ら〜めんは繁盛していたものの、昼のピークを過ぎると、人が少なくなる。そこで、空いたスペースを円城寺さんが俺たちに提供してくれたのだった。勉強というと、最近はS.E.Mのところへ行って、元教師の人から勉強を習っていた。円城寺さんが教えてくれることもあったが、俺が先生と慕っている人たちはいつも時間が空いているわけではない。そこで、名前さんを呼んで、一緒に勉強しようと思ったのだった。 名前さんは持ってきた教科書やプリントをテーブルに広げた。男道ら〜めんの客はいつの間にか、俺たちだけになっている。円城寺さんは相変わらずカウンターの向こうに立ったままだ。彼女が触れていないプリントをチラッと見てみれば、図形や表が心狭しとばかりに並んでいて、今の俺には到底解けないと思った。もし、俺が理解できていたなら、教えることもできたのにな。 「タケルくんはどうする?」 「円城寺さんや他の人が忙しそうだったから、聞けなかったところがあるんだ。名前さんに質問してもいいか?」 「わたしで答えられるならもちろん!」 彼女の解く問題のレベルからして、幾分も低いレベルの問題で引っ掛かっていることが分かっているため、聞くことに少し躊躇いがあった。ボクシングに打ち込んできて、勉学が疎かになっていた俺のことを名前さんは知っているが、それでも目の前で自分の学力の無さを彼女の前で晒け出すのはなんとなく嫌だ。今まで他人と一定の距離を置いていたが、円城寺さんたちと活動をして、ひとりのアイドルとして、場数を経験するごとに自分のことを知ってもらうことの大切さも知っている。でも、彼女には自分の弱い部分を見られることが上手く言葉で言えないが、戸惑いがあるわけなのだ。いわゆる、葛藤だ。 「どこが分からないの?」 「……これ」 こんな問題も解けないの、とか思われるのだろうか。先生たちから出されていた問題が書かれたノートを彼女の前に差し出すと、一連の問題に目を通した名前さんは、これはね、とシャーペンで数式をすーっとなぞる。表情を変えない彼女をしばらく眺めていると、急にプリントから顔を上げた名前さんが笑っていた。タケルくん質問したのに聞いてないでしょ、と。どう思われるか気にしてばかりで、肝心な勉強を怠る方がよくないよな。心の中で呟いた言葉は誰に届くわけでもなく、自分の中で消えていく。 解き方を説明しながら彼女は、その隣に小さく薄くヒントを書き込んでいく。サラサラと流れるように書かれる解法は、名前さんが解き慣れている証拠に間違いなかった。ああ、そうか、そうやって解くって隼人さんも言っていたような気がする。反復練習は重要だが、そろそろ完璧に身に付けるべきところだ。 「こう、でいいのか?」 「待ってね……そう!これで次も同じようにやってみて」 「助かる」 「タケルくんは偉いね。自分から勉強するだなんて。わたしは言われるがままに勉強してるから」 「そんなことないだろ」 「捗ってるかー?ほら、差し入れ置いておくぞ」 「円城寺さんありがとう」 「道流さんが作ったんですか!?美味しそう……」 今は未熟だが、いつか彼女が尊敬の眼差しを向けてくれるように日々頑張るだけだ。少しでも、名前さんにすごいと言われたいから。後々は、俺が教えられるような立場になればいいな、と思いながら円城寺さんの用意してくれた甘い物を口に入れた。 |