円城寺さんが自分は店にいるからと貸してくれた鍵で、部屋の中に入ると、卓袱台の上に何本かの映画のDVDが積まれていた。今度の仕事で参考になりそうだからタケルも観ておくといい、と言われている。漣にも観て欲しいんだけどなあ、彼はそう続けた。円城寺さんは抜かりのない人で、こういうところは俺も見習わなくてはいけない。けれど、なぜか鍵を渡してくれる時に、名前さんが彼の隣でニコニコしながら立っていたのだ。訳が分からず、何を言おうか迷っていると、円城寺さんは名前にも観てもらったら自分たちの演技の幅が広がるようなアドバイスがあるかもしれないと言う。まあ、確かに俺たちが目を付けるところと、ファンが目を付けるところは多少違うことだってある。お邪魔します、と靴を並べる名前さんは目を擦った。



「名前さん……断ってくれてよかったのに」
「あっ、ご、ごめんね!大丈夫」
「テストで徹夜だったんだろ?」
「……うん」



じゃあ、なんで。そう問い掛けようとして、口を開いたが何も言わずに閉じた。というのも、早速DVDの山を見て瞳をキラキラさせていたから。きっと円城寺さんが用意していた映画のDVDを知っていて、こんなにワクワクしているのだろうし、眠たくてもDVDを観たいという気持ちが勝ったのだろう。長期休暇前のテストを乗り越えた彼女にはご褒美ともいえる。丁寧にひとつずつ並べていったDVDの中から、俺が貰っている役で参考になりそうな物を選んで、再生装置へとディスクを挿入する。テレビから離れたところで正座をして待つ名前さんは、まるで餌を待っているペットのようだった。思わず笑いそうになって、歯を噛み締める。リモコンで音量を調節しながら、彼女の隣に腰を落ち着けてじっと画面を見つめた。注意事項が流れるところで、俺と名前さんの呼吸音だけが聞こえて足を組み直す。小さな棚に凭れるようにして、爆発音から始まる映画に注意を向けた。
序盤はアクションシーンが多く、激しく動くカメラワークに名前さんは声を零していたが、中盤の辺りは延々と事件の真相を暴く調査が進む。この辺りがこの映画で評判になっていたところだ。演者たちの絶妙なやり取りに息を呑む。目だけの会話、円城寺さんが注目して欲しいと言っていた俳優の動きを追う。と、肩にストンと何かが当たったか、降りてきたことに気づいて思わずリモコンの一時停止を押した。音の消えた部屋には、規則正しい呼吸音。ああ、と状況を理解した俺は手の届く範囲にあった毛布を引っ張ると、名前さんに掛けた。徹夜明けでDVD鑑賞はさすがに辛い。なんとなく予想はできていたけれど、序盤の勢いですっかり忘れていた。



「……おやすみ」



身体が倒れないように、コテンと横になった頭だけではなくて、名前さんの身体全体が俺に凭れかかるような体勢にすると、リモコンの再生ボタンを押す前に音量を下げる。背凭れのある椅子への移動も考えたが、移動の際に起こしてしまうのもかわいそうだと思った。それに、名前さんがくっついてくれることでなんだか安心できる。チャンプを撫でている時と似たような、そんな気持ち。画面の向こうには、事件の解決に向かって一斉に走り出す人々の姿が映し出されていた。

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