*女の子≠プロデューサー 「ちょうど良かった。タケルくんお疲れ様!」 「……来てたのか」 「お母さんがご飯作り過ぎちゃったから、タケルくんにもおすそ分けって」 「名前、あのな」 「ん?」 「これ」 「わ!これ、タケルくん!?すごいね……やっぱり、タケルくんはアイドルなんだね」 「なにを今更言ってんだ」 「……うーん、タケルくんを前から知っているから、ずっと近くにいると思っていたけど、そうじゃないんだなあって」 そう呟いた名前の横顔は今までに見たことのない表情で、俺はなんと言葉を返せば良いのか分からなかった。幼馴染として育った彼女と過ごした時間は誰よりも長いはずで、当然のごとく俺は名前の近くにいると思っている。しかし、彼女の口から零れ出た言葉は、俺の存在が近くにはないというものだった。昔から変わらず怖がりな名前のすぐ傍で、彼女が恐れる様々な物から守ってきたはず。野良犬からだって、近所のガキ大将からだって、泣きじゃくる彼女の前に飛び出ては代わりに噛まれたり、殴られたりと傷をいくつも作った。子どもながらに彼女を守るという使命を持っていたのだと思う。今はそれが本当はどういう意味を持っているのか、少しずつ分かってきた気がする。でも、名前は傷を作る俺を見て泣くのだ。涙を流させないために俺が守ったのに。それでは意味がない。じゃあ、どうすれば良いのか。まだ、その答えは出ていない。 「俺はここにいる」 「……そうだけど」 「名前、今、オマエと喋っているのは俺だ。アイドルじゃなくて、幼馴染だ」 「タケルくんはアイドルだよ」 「は?俺の話を、」 「タケルくんはみんなのアイドルだよ。わたしだけの幼馴染じゃないの」 守られる女だったはずなのに、どうして意地を張ってまで強がるのだろう。いつから、弱い所を隠すことを覚えたのだろう。少しずつ離れていってしまっているのは、本当は俺じゃなくて、名前じゃないのか。彼女の持った皿の湯気だけが、俺たちの沈黙の間も立ち上っていた。 |