*女の子≠プロデューサー



「漣くん漣くん」
「ったく、うるせーな」
「漣くんって、ちゅーしたことある?」
「はァ!?」
「ふふ、漣くんすぐ動揺するから可愛いね。お姉さん、ときめいちゃうよ」



道流さんのラーメン屋のすぐ近くに、わたしの家系が代々受け継ぐ弁当屋がある。今は見習いだけれど、そのうち当主になる。道流さんとは初めて挨拶を交わしてから、仲良くしてもらっているが、最近になってその道流さんがアイドルになった。グループで活動しているらしく、彼よりもおそらく年下であろう子を二人連れて歩いているのを見かけることが多々ある。ラーメンをご馳走しているのだろう。その二人はタケルくんと漣くんというらしく、見かけた数日後に道流さんがわたしに紹介するために、弁当屋にわざわざ連れてきた。タケルくんは最初から最後まで真摯な姿勢だったけれど、漣くんからは面倒くさいというオーラが溢れんばかりで、こんなアイドルもいるのだなあと笑ってしまったくらい。まだまだ子どもっぽい印象を受けた。漣くんは目が合ったかと思えば、すぐ逸らしてしまう。紹介をするために来た道流さんはとても自慢気だったので、わたしは特に何も言わなかったけれど。
そして、その漣くんが今日はなんと一人で弁当屋にやって来たのである。しかも、わたしがちょうど店番の時間に、だ。電話注文が入った弁当を確認しながら、入り口の近くに座る漣くんをちらちらと見るが、彼は何も喋らない。目的がよく分からないなあ、なんて思いながら話題を吹っ掛けてみたところ、とてもウブな反応が返ってきたので大満足だ。漣くん来てくれてありがとう。わたしの投げかけに答えた漣くんは、カウンターの方を見向きもせず、背を向けてしまっていた。耳が赤くなっているのは隠せていないけれど。



「漣くん」
「……な、なんだよ」
「なんなら、お姉さんがちゅーしてあげてもいいよ?だって漣くん可愛いんだもの」
「たっ、頼んでねーし!」



店のガラス張りの部分に向かって大声で叫ぶ漣くんの表情をはっきりと捉えることはできなかったけれど、ガラスにうっすらと映っていた。きっと動揺していて、わたしにその表情が見えているなんて考えることができていないのだろう。それに、店を飛び出してしまえばこの会話を断ち切ることは簡単なのに、そうしない漣くんはやっぱり可愛いのだ。



Title:誰そ彼

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