*女の子≠プロデューサー 大学のテスト期間が終わって、今日から待ちに待った夏季休業だ。高校生までは夏休みも宿題に追われ、あっという間のものだったけれど、大学生には縛られる課題もない。つまりは自由だった。とはいえ、わたしのスケジュール帳はバイトの時間を書き込んでいるだけで遊ぶ予定なんて全くない。何をして遊ぼうか。どんな友だちを誘おうか。毎年のように大学生はどうやって遊べばいいのだろうかなんて頭を悩ませつつ、アイス棒をくわえてリモコンのスイッチを押す。世間も夏休みムードで、今年のおすすめスポットが紹介されていた。 頼りがいのありそうなガタイの良いお兄さんが、今年は海で楽しく遊びませんかとばかりに宣伝をしている。ふとお兄さんから目を逸らすと画面左上に、今人気上昇中のアイドルグループのおすすめ夏休みスポットと謳われているのが飛び込んできた。つまり、このお兄さんはあるアイドルグループの一員ということである。 「あれ、この人……」 わたし以外に誰もいないこの部屋は小さな声でもよく響く。カメラの前に現れたのは見覚えのある男の人だった。少し前にわたしが落とし物をして交番に行った時、この男の人に出会ったような気がする。でも、わたしが会ったのは警察官で、画面の向こうにいるのはアイドルだ。顔がそっくり、というか本人としか思えなかったのでますます混乱する。少し怖い顔なのだけれど、落とし物のことを相談すると丁寧に優しく話を聞いてくれたはずだ。もしかして兄弟でもいたのかな。 「いらっしゃいませー!」 わたしは入り口を向いた途端、びっくりしてメニュー表を床に落としてしまった。ドアを開けて来店したのはついこの間、画面の向こうでみんな海で元気よく遊ぼう、と叫んでいたお兄さん。有名人が店にやって来るのは初めてではないにしろ、今とても人気のアイドルグループが来たとなれば、店内は大混乱に陥るに違いない。血の気が引いていくのが自分でも分かった。すると、わたしの肩を誰かがトントンと叩く。振り返れば、わたしの顔を見て、店長が腹を抱えて笑いだした。そんなに酷い顔でもしていたのだろうか。ひとしきり笑った店長は、今日は貸切だから安心しろと言う。ほっと肩を撫で下ろしたわたしの姿を見て、また店長は笑いながら厨房へと向かっていった。それならそれで、わたしが出勤した際にでもすぐ言って欲しい。どうせ、驚かせることが趣味のひとつになっている店長のことだから、わたしの反応を楽しもうとしたのだろうけれど。 カウンター越しにアイドル三人が座ったのを確認したわたしは、冷静を装ってメニュー表を手渡す。わたしがよく知らないアイドルグループだけれど、有名人には間違いないので粗相のないように振る舞わなければ。失態を晒すわけにはいかないのだ。あんな店長だけれど、この店は評判であり、こうやって有名人がお忍びで来る。 「あれ?いつかの落とし物の子じゃないか」 「……えっ、じゃあ、やっぱりあの優しい警察官さんなんですか!?」 「覚えててくれたんだな。嬉しいよ」 「あの!わたし!警察官さんのファンです!」 「アイドルになったけど、それでもファンでいてくれたらもっと嬉しいけどな」 「もちろんです。今日皆さんのこと教えてくださいね!」 Title:水葬 |