*女の子≠プロデューサー



無言のまま、家に上がり込んできた漣くんの機嫌が悪いのは、それはもう丸分かりだった。まるで野良猫が毛を逆立てたようで、ちらりと見える牙を光らせてズンズンと向かってくる。会話をしても無駄ということは直感で分かっていたので、特に抵抗することもなく、ただただ後ずさりをするだけだった。漣くんはわたしを上手く誘導したのか、それとも無意識でそうしたのかは分からないが、逃げ場をなくしたわたしの後ろにベッドが来た瞬間に少しだけ表情を変える。飛び掛かって、わたしの上に伸し掛る漣くんはやっぱり不機嫌だった。



「なんで、オレ様以外に触らせんだ」



今にも噛み付きそうなくらいに顔を近づけた漣くんの一言で、わたしは昼間の出来事を思い出していた。今日、たまたま漣くんの撮影現場の近くを通りかかったわたしは、彼と一緒に撮影をしていた春名くんに声を掛けられた。春名くんはわたしと同級生だった人だ。いろいろあって学年を違えてしまったが、連絡を取ることがあるくらいには仲の良い友人である。春名くんは休憩時間で、漣くんたちが撮影中らしく、わたしが彼とたわいもない話で盛り上がっていたところ、急に春名くんが手を伸ばしてきた。異性ではあるが、気を許している相手なので特に気にもしない。春名くんはこの服、可愛いなといって洋服に施されている装飾に触れたあと、風のせいでくちびるにかかっていた横髪を整えてくれたのだった。春名くんは本当は大人だし、それにお洒落な人だ。多少、友人という枠から出ているかも、なんて思ったりもしたが、なんといったって良い友人である。それ以上でもそれ以下でもない。春名くんと話をしている間に撮影が終わった漣くんと、一瞬だけ目が合ったのを覚えている。
漣くんの機嫌を損ねた原因はどうやらわたしにあるようだった。彼は自分の所有物に他人から干渉されることをとても嫌う人だ。わたしのことも、自分のモノだと思っているらしい。別に、彼氏でもなんでもないのに。



「チッ……何か言え」
「……春名くんと仲良くするの、そんなに嫌なの?」
「黙りやがれ!」



好き、だとか言われたわけではない。でも、わたしは漣くんのこと好きな方だと思っている。口は悪いし、アイドルとして少し不安な点もあるけれど、根は素直な子だ。今だって、言葉にはしないものの、感情を態度に露わにしているではないか。自分の感情にありのままでいられるって少し羨ましいことかもしれない。わたしのシャツをぐいっと引っ張って鎖骨辺りに噛み付いた漣くんの本心は一体なんなのだろう。わたしの解釈であっているのかは分からないけれど、漣くんはわたしを所有物だと思っているのは間違いないだろう。そうでなければ、わざわざわたしの家にやって来て、こんな風に印を残すなんてことしないと思うの。


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