キッチンに並べられた材料はお菓子作りのためにかき集めたもので、日頃から執務に追われて休む暇がなかなかないマークス様に持っていくためだった。皺を眉間に寄せたマークス様はこのところ、充分に休息を取っていないらしく、臣下の二人が休ませるためにどうするべきかを話していたのを耳にしている。そんな情報を手に入れたわたしもマークス様にはお世話になっているので何かお礼がしたいな、と思った。でもそれは建前に過ぎないかもしれない。だって、材料として用意されていない、形のないものを隠し味にしようと考えているのだから。誰にも感づかれてはならない、秘密の隠し味。お菓子のレシピには絶対に書いていないのだけれど、恋愛のレシピには書いてある必要な物なのだ。ぐるぐるとかき混ぜた卵と牛乳、ふんわりクリーム、ひとくちサイズに切った果物、甘さを加えるように砂糖をふりかけて。そうだ、チョコレートも使っちゃおう。ハチミツを入れたら、もっと甘くなるのかも。そんなこんなで出来上がったお菓子はマークス様だけでは食べきれない量になってしまったので、結局みんなに配ることにした。でも、マークス様に持っていく物だけはわたしの秘密の魔法をかけちゃう。甘さだけでは大人になれないなんて聞いたことがあるけれど、そんなことは知らない。わたしの気持ちも入れて、マークス様を甘い罠にかけちゃおう。



「マークス様」
「どうした」
「あの、休憩にお菓子はいかがですか?」
「名前が作ったのだろう?」
「はい」
「ただ、私はどうしても手が離せないのでな。お前が食べさせてくれると助かる」



フッと笑ったマークス様は書類を書く手を休めない。わたしが罠にかけようとしていたのに、これでは反対に罠にかけられてしまったようだ。この恋心は決して言葉にしないと決めていたはずで、誰にも知られないようにしていたはずなのに。マークス様はもしかして気づいているのだろうか。でも、わたしはこの任務を堂々と遂行してやろうと思う。だってわたしは甘い魔法使い。意地っ張りだから絶対にこちらから折れてはやらない。相手がマークス様だとしてもね。わたしがフォークで刺したイチゴからは甘酸っぱさが弾けた。





Image song:スイートマジック/ろん×Junky


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