ふたりだけの秘密の呪文は何にしようか


*女の子≠プロデューサー



蒼井享介、18歳、彼女ができました。なんて言っても、俺はそんなに女の子の扱いに慣れていない。事務所にいる年上の人たちにアドバイスを貰って、デートの仕方を予習しておこうとか思っていたけれど、まず彼女ができましたと報告をするステップで躓いていた。悠介には報告する前にバレたけど。結局、デート当日までに彼女のことを言えたのは悠介と監督だけかな。
待ち合わせ時間よりも五分ほど前に到着した俺は、今日行く場所を確認する。本当はもう少し早く着くはずだったのに、いつも曲がる道をひとつ間違えた。遅くなってしまったけれど、まだ彼女は来ていない。先に、頭の中でイメトレをしないと。彼女が来たら、挨拶をして、甘い物が好きだっていうから美味しそうなカフェを見つけておいたよって言って、それから。時計台の下にあったベンチにゆっくりと座り込んだ俺は、カフェなんか入ったことない。お洒落なお姉さんやお兄さんばかりのイメージがあったから、悠介と二人で入るなんてできなかった。監督に練習頼めば良かったかな。



「享介くん!」
「あ、名前ちゃん。おはよ!」
「おはよう」



俺が立ち上がるよりも先に、隣に彼女がベンチに座った。そんなシミュレーションはしてないって。いきなりの想定外のシチュエーションに早速戸惑う俺を余所に、彼女はじっと瞳を覗くようにこちらを見ている。まんまるの可愛い瞳には俺だけが映っている。何度か目を逸らしても、彼女は見つめるのをやめてはくれない。行き場のない手の指たちがぴくり、ぴくり、と動く。まだ始まったばかりのデートなのに、心臓がいきなり煩いとか、嘘だよね。胸の辺りの布をぐっと掴むと、彼女はやっと目を俺から空へと移してニコニコと笑う。



「享介くんのこと、やっぱり好きだなあって思ったの」
「えっ」
「享介くんの好きなところ、いっぱい言えるもん」
「名前ちゃん、ちょっと待って!少し落ち着かせてね……」



帽子を深く被って、既に真っ赤で熱い頬を両手で押さえる。こういう時は深呼吸、深呼吸。思った通りの熱は、じわじわと指先まで広がっていくようだった。いきなりあんなこと言われたら、俺、対応できないよ。この場合はなんて返すのが正解かな。でも、あんまり待たせるのも悪いし、えっと、どうしようかな。困ったな。チラチラと彼女の方を盗み見れば、スマホで何かを検索しているらしかった。きっと、俺の待ってをちゃんと受け止めてくれたんだろう。俺だって、彼女のことが好きだし、好きなところもきっといっぱい言えるはず。だけど、こんな場所で堂々と言うのは恥ずかしさが勝ってしまう。



「享介くん落ち着いた?」
「う、うん。もういいよ」
「じゃあ、指切りしよう。小指出して」



一体、どういうこと。ワケも分からずに俺は、小指を彼女に向けて差し出す。ステージの上だと、悠介と一緒に堂々とパフォーマンスできるのに、彼女の前ではそうもいかないらしい。ステージの上でどうやって振る舞っているんだっけ。
彼女は小指を差し出した俺を見て、満足そうに笑うと、自分の小指をこちらに差し出す前にそっとくちづけて、まるでアイドルのようにキスを飛ばした。本当は俺の方がアイドルなのに。えっ、投げキッス。しかも俺だけに。そのまま、小指を俺のと絡める。細い指の先がさっきまで彼女のくちびるに触れていたと思うと、収まったはずだった熱がまた込み上げてくるようだった。恋愛の策士、って言いたい。ズルいなあ。デートのスタートは彼女に一本取られたけど、これからは俺が逆転するからね。指切りを終えた手を一瞬で絡め取った俺は驚いた顔を見ることができた。負けてばっかりではいられない。そう思いながら、カフェへの道を、彼女の手を引いて歩くのだった。



Title:誰そ彼
Image song:恋のLesson初級編/伊吹翼
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