サンセットラッシュアワー


*女の子≠プロデューサー



しろうくんとかのんくんとのお仕事が終わって、ボクがひとりで帰り道を歩いていると、道端で蹲っている女の人がいた。プロデューサーさんみたいにスーツをかっちりと着込んだ女の人は、鞄もその辺りに放り投げて、壁にもたれかかっているようだった。知らない人に声をかけるのは少し緊張するけれど、きっとあの人は体調が悪いに違いない。お腹を押さえているのもわかるし、声を掛けてみよう。大丈夫、今のボクなら、できる。深呼吸して、そっと近づいて、ゆっくりと言葉を発する。



「だ、大丈夫ですか?」
「大丈夫では……ないかな」
「救急車呼んだ方がいいですか!?」
「ごめんね、もう少ししたらよくなるはずだから……君は暗くなる前に早く帰ったほうがいいよ」
「ほ、放っておけません!」
「アイドルの子には迷惑かけられないよ」
「ぼ、ボクのこと知ってるんですか?」
「岡村さんはわたしの近くのお家の方。そこの子がアイドルで、岡村直央くんで、もふもふえんっていう……っ、いたたたた……」
「わあああ、喋らなくて大丈夫です……!あ、あの、良ければボクも一緒に帰っていいですか?」
「わたしなんかと一緒で大丈夫……?」
「むしろ、ぼ、ボクが帰ってもいいんですか!?」
「……嬉しいな。帰り道、一人じゃないから」



ボクが声を掛けた女の人は、偶然にも近くに住んでいる人らしい。それにお母さんとも挨拶をしたことがあるみたいだった。お腹を押さえながら立ち上がると、名前さんと名前を教えてくれた。ボクは、放置されている鞄を持つと、歩き出した名前さんの隣にぴったりとくっつく。なんだかお母さんと歩くときみたいかも。
あまり顔色のよくない名前さんは、フラフラとしていて今にも倒れてしまいそうだ。ボクだけではさすがに大人を支えるのは自信ないけど、でも今、名前さんを助けられるのはボクしかいないんだ。そう自分に言い聞かせながら、一歩ずつ着実に歩く名前さんを見守る。ヒールの音と、ボクの運動靴の音が交互に鳴る様はまるで言葉のない会話のようだった。
ボクの家がもうすぐ見えてくるというところで、名前さんが鞄に家の鍵が入ってるから取ってくれるかな、と言ってきた。鞄のボタンを外して、失礼しますと言いながら鍵を探す。すると、名前さんは、直央くんはやっぱりテレビで観ている時と一緒で優しい心を持った子だねと零した。ぼ、ボクはそんな。鍵を渡しながら、ワタワタしていると名前さんはだいぶ復活したのは君のおかげだよと、頭を撫でてくれる。
玄関の扉を開けた名前さんは、ちょっと待っててねと行ったあと、そこから姿を消した。玄関の靴箱には、ヒールやスニーカー、ブーツがきっちりと並べられていて、几帳面な印象を受ける。しろうくんが運動靴を脱ぎ散らかしたままで、プロデューサーさんとかのんくんに注意されていたのをふと思い出して笑ってしまった。



「直央くん」
「は、はい」
「今日のお礼、こんなのしかなくてごめんね。また今度何か用意するから」
「そ、そんな……!ボク、何もしてないので大丈夫です!」
「ううん。直央くんはわたしの心を温かくしてくれたんだよ。嬉しかった!」
「……ボクも嬉しいです、えへへ」



シュークリームをボクの手に乗せてくれた名前さんはお腹の痛みをすっかり忘れたように笑ってくれた。ステージからお客さんの笑顔を見るのもすごく嬉しいけれど、こうやって小さなことで人を幸せにできるって、いいなあ。
甘い匂いに、思わずお腹が鳴ってしまう。玄関中に響くそれに名前さんは笑いながら、食べたら今度はお姉さんが直央くんをお家まで送っていくね、と元気いっぱいに宣言してくれた。



Title:さよならの惑星
Image song:ステキハピネス/天海春香
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