この孤独に誰がさわってくれるだろう
*女の子≠プロデューサー
「また何か落ち込むことでもあったのか?」
「仕事で上手くいかないことがあって……」
「んなの、俺もあるぜ」
輝くんに話を聞いてもらうのは何度目か分からない。アイドルの仕事も忙しいというのに、ほんのちょっとの弱音でも聞いてくれる輝くん。頼ってばかりは悪いと思う。でも、彼の優しさにどうしても甘えてしまうのだ。具体的な方法はその仕事が専門ではないから答えることができなくてごめんな、と決まってその台詞を零す。カラン、と鳴ったグラスの中で氷が溶けて、ジュースと水が混ざっていく。溜め込んだ物を吐き出す場があるだけで、わたしが救われていることを知らないのだろうか。輝くんが褒めてくれるから、仕事も上手くできない駄目な自分をほんの少しだけ、好きになれるんだよ。
グラスを空にした輝くんは、次の飲み物を注文するためにメニュー表へと視線を落とす。まさか仲の良い同級生が突然アイドルになるだなんて思ってもいなかった。テレビで有名になっていく輝くんと全く逆で、わたしはどんどん落ち込むばかりだ。同い年の彼はあんなにキラキラ輝いているのに。
「名前は名前、俺は俺。別の場でやっていってるんだから、比べる必要はないだろ」
「でも……」
「お前の悪いとこ、そこだよな。クヨクヨしてばっかじゃ、何も始まらない。ほら、俺たちの曲を聴けって。誰かの背中を押すこともアイドルの仕事のひとつなんだからな」
「輝くんたちの曲……」
「CDあげただろ」
「……う、うん」
「俺たちアイドルは、聴いてくれる人たちを笑顔にすることが一番の仕事なんだ。それに俺は正義のヒーローも、一番星も目指してる。名前にも、知ってほしい」
輝くんが組んでいるユニットには、他にも桜庭さんと柏木さんという人がいる。彼らが出ているバラエティ番組を何度か見たことがあるが、毎日楽しく支え合いながらアイドル活動をしているのだろうなと思った。輝くんと桜庭さんの言い合いを止める柏木さん。互いに干渉し合っているのは、寄り添い合おうとする結果だろう。わたしも、もっと本心で輝くんに接したら近づけるのかな。でも、わたしがその一歩を踏み出すには勇気と自信が足りない。輝くんに頼らずとも、きちんとやっていける大人になってからじゃなくちゃ。
サラダにドレッシングをかけて、箸でそれをキャベツと和える。悩んでいたって仕方ない、と思えるのは輝くんのおかげだ。腕時計の付けられた輝くんの手がテーブルの上に置かれているのを見つけたわたしは、腕時計を触れるようにして手を乗せる。決意表明のつもりのようで、ちょっぴりずるいのはどさくさに紛れて、彼に触れているところだ。でも、輝くんもよく不意に触ってくることがあるし、このくらいなら許されるだろう。わたしもいつか、輝くんを支えられるくらいの女になろう。
「……っ、名前?」
「え、輝くん間違えてお酒飲んだの!?駄目だよ、輝くんお酒強くないんだから!」
「いやいや、俺は酒飲んでないから!それより、名前、この手……」
「頑張るぞ!って思って」
「それで俺に触るって……あー、こっちの気も知らないで」
「帰ったらCD聴くね」
「あ、ああ……」
お酒に弱い輝くんを一人で快方できる自信はないので、絶対にお酒は回避してもらわなきゃならない。やけに頬を赤くさせている彼がまさか飲んだのかと焦ったけれど、輝くんの前に置かれているグラスはノンアルコールを示す形だった。今日も輝くんに元気貰ったし、また頑張ってみよう。仕事も、そして、小さく足音を立ててすぐ傍まで歩いてきている、この恋にも。
Title:ジャベリン
Image song:ちいさな恋の足音/篠宮可憐