今はまだ、いつかはずっと
*女の子≠プロデューサー
「道流くんー!」
「ほら、できてるぞ」
テーブルの上に道流が焼きたてのトーストを置いたと同時に、彼の部屋に駆け込んできたのは名前だ。道流はオフの日であるが、彼女はいつものオフィスカジュアルで仕事用の大きな鞄を抱えている。パンのいい匂いがする、と彼女が呟けば米もあるぞと道流は笑った。出勤前に名前が道流の部屋にやって来るのは決して珍しいことではない。幼馴染である彼らは最近になって再会していたのである。その時に道流が夕食をご馳走したのだが、すっかりその味の虜になってしまった彼女は、彼のオフの日を狙っては朝食をお願いしているのだ。冷蔵庫から納豆を取り出してきた道流は、彼女に座布団を渡すと、向かい合うようにして座る。お茶に牛乳に、味噌汁にサラダに、様々な料理が心狭しと並ぶ。和食と洋食の混じったそれはまるでちょっとしたビュッフェ気分を味わうことができるようだった。
「道流くんのご飯が楽しみでいつもよりもうんと早起きだよ」
「そうか。それは嬉しいな」
「道流くんも早起きだよね……」
「うーん、自分は毎朝この時間だから、むしろ日常って感じだ」
「……あーあ、わたし休みの日だったらまだ眠ってる時間だよ」
「まあまあ。それより、早く食べよう」
「そうだね。いただきまーす!」
トーストに豪快にかぶりついた彼女が、パリッと音を立てる。焼き立ての匂いはいつの間にか部屋中に充満していて、どの料理を口にしたとしても匂いはトーストの物になってしまいそうな勢いだった。箸を持った道流は、炊きたての米を摘む。こちらも出来立てのあたたかさで、ほんのり甘い匂いがしている。負けずとばかりに主張してくるようだ。
頬が膨らむほどに詰め込む彼女の様子は、道流がよく見る光景に似ている。店で、言い合いや睨み合いをしながら自分の料理を口にするユニットの仲間たちを瞬時に思い浮かべたのだった。だが、彼女に料理を食べてもらうのはそれと全く一緒かと問われれば、素直に頷くことはできない。人が違うだけで、ご馳走する側の受け取る気持ちも違うもんだなあ、と道流は味噌汁を飲み干しながらそう思った。
「今度、一緒のお休みの日があったよね?」
「ああ、そうだったな」
「日曜日だっけ?あの日、わたしも一緒に作りたい。お手伝いする!道流くんみたいに上手にできるわけじゃないけど……いつも作ってもらうお礼に」
「ははは、名前はオフの日、この時間は寝てるって言ってたけどな」
「お、起きるもん!」
「楽しみだなあ」
二人で狭い台所に立つ想像をしながら、名前はトロリとしたオムレツを口の中に運ぶ。口の中で蕩けてしまいそうなそれに、自分の想像も少しばかり夢見るようなものに変わっていく。二人で台所、なんて新婚さんみたい。ふと道流の方を見た彼女だったが、タイミングよく彼も名前の方を見ていたようで、ばっちりと目が合う。互いに何を考えているのかは分からなかったが、この一時を楽しんでいるのは間違いないことのようだった。
道流くん、ご馳走様でした。名前は仕事、頑張れ。何気なく交わされる言葉が心地良いものだった。心地良さの裏側にひっそりと隠された、まだ形成されていない感情の名前を知らずに、二人の一日は始まる。朝食はそんな二人にとって大切なものだ。
Title:誰そ彼
Image song:おはよう!!朝ご飯/高槻やよい