きららんきらーん
*女の子≠プロデューサー
「名前ちゃーん!」
「あれ?かのんくん、お仕事は?」
「おわったよ!」
駆け出しであるが、デザイナーとして働いている名前はかのんの父親の仕事場を訪れていた。ちょうど出掛けているとのことだったので、部屋で待たせてもらうことにしたのである。かのんは仕事が終わって、プロデューサーに仕事場まで送り届けてもらったところ、ちょうど彼女と出会ったのだ。何度も会ったことのある彼女とかのんは、すぐに話を弾ませる。
「名前ちゃん、あたらしいお洋服かんがえたー?」
「うん。こんな感じ。かのんくんのお父さんには全然追いつけないけど……」
鞄の中からスケッチブックを取り出した名前は、かのんの前でページをパラパラと捲って見せた。鉛筆で描かれたそれに、簡単に色が乗せられている。かのんは、早々と捲ろうとする彼女の手を遮ると、ある1ページをじっくりと眺め始めた。途端に彼女は審査されている気分になる。かのんは父親のデザインした洋服を毎日見ている上に、アイドルとして日々努力を重ねている。幼いながらに磨かれたその瞳は、まるで大人を思わせるものだった。
もふもふえんというユニットに所属する前から、名前とかのんは度々顔を合わせているのだが、こうやって彼女の初期デザインを彼がまじまじと見るのは初めてのことだ。そのデザインはつい最近発売されたばかりのかのんらしい歌詞と曲調に影響されながら、デザインを進めていたものである。かのんは座っていたソファーから、ちょんと飛び降りるとテーブルから少し離れてクルクルと踊り出す。その姿に、彼女の耳に自然と歌声と曲が流れてくるようだった。綿菓子のようにふわふわなステージで、彼の魔法が掛けられた衣装はかのんが着ることによってさらに輝きを増す。照らされたライトを一身に受ける彼は、とびっきりの笑顔を浮かべる。そんなイメージで、名前はこのデザインを完成させた。
「名前ちゃんはパパみたいなお洋服を作りたいの?」
「ううん。素晴らしいデザイナーだとは思うけど、真似をしたいわけじゃないよ。わたしもいつか、あんな風に素敵な洋服を作れるデザイナーになりたいの!」
「……じゃあ、かのんは、名前ちゃんのお洋服待ってるね〜!」
ソファーに戻ってきて、鉛筆の線を小さな指先でなぞり始めたかのんは、ニコリと笑う。かのんくんの洋服のデザインかあ、ぽつり呟く彼女。アイドルの洋服を作るなんて夢のまた夢かもしれないが、かのんも応援してくれていることが分かって思わず零れた言葉であった。いつでもプロ意識を忘れない姿は彼から随分と学んできたものだからこそ、負けずに頑張ろう。名前は、スケッチブックの上に筆箱を乗せる。彼女の背中を押したかのんは、パパまだかな〜と言いながら膝の上に両手を置く。
「このデザイン、こうしたらどうかな」
「かのん、こういうの、かわいいからだーいすき!」
「ほんと!?」
「えへへ。もっと、名前ちゃんやってみせて〜」
筆箱のチャックを開けた名前は、口元を緩ませながら鉛筆と消しゴムを取り出すとその場で再考を始める。彼女の集中し始めた姿を見たかのんは隣で、今日貰ったばかりの台本に目を通す。読み仮名の書き込まれたそれに、かのんはクスクスと笑った。ソファーには、すっかりプロの瞳になった二人が並び、それぞれ手と目を動かす。彼らの目指す先は全く違うようだが、本質的には似ているものなのかもしれない。
Title:さよならの惑星
Image song:ふわもこシフォンなゆめのなか♪/姫野かのん