二人の関係性において最も模範的な答え
*女の子≠プロデューサー
「プロデューサークンはまだでにゃんすね?」
事務所の扉を開けると、猫柳さんの声が一番に聞こえてきた。そういえば、昨日プロデューサーさんが今日は彩のみんなが最初に集まるはずと言っていた。なんでも午前中に済ませるロケらしい。その準備の手伝いで、わたしも早めに出勤したのである。たぶん、猫柳さんの話相手は山村さんだろう。事務所の扉を開けるのは基本的にプロデューサーさんか山村さんだから。
ふんふん、と音符が飛び交うような空間を作り出しているのは猫柳さんだ。とりあえず、着替える前に挨拶を済ませておこう。そう思って、わたしは彼の声が聞こえる部屋をトントンとノックする。しかし、歌に夢中なのか猫柳さんはわたしのノックに返事をしてくれなかった。ソロ曲を口ずさんだり、彩のユニット曲を歌ったりして一人ステージを絶賛開催中だ。
「おはようございま……わっ!?」
「にゃはははは、名前クン隙ありでにゃんす!」
返事を待たずに扉を開けたわたしの顔面に向かって、何かが勢いよく飛んできたものだから、驚いて尻餅をついてしまった。ペタッと床にくっついたわたしを見た猫柳さんはご満悦とばかりに笑っている。わたしの手元でさっき飛んできたものが蠢いていることに気づいて、よくよく観察してみれば、鳥の玩具だった。パタパタと動いたり、止まったり。猫柳さんの持っているリモコンがあの玩具を動かしているらしい。
「ワガハイ、名前クンに気づいていないフリをしていたでにゃんす」
「……も、もうびっくりしたじゃないですか!」
ちなみにわたしが猫柳さんに悪戯を仕掛けられるのは今日に始まったことではない。今みたいな小さな悪戯を何度も受けている。その度にいわゆる良い反応をわたしがするからいけないのかもしれないけれど、彼がわたしを楽しくさせてくれることもあって、なんだか憎めないのだ。朝起きてどんなに憂鬱な気分でも、猫柳さんはわたしを笑わせてくれる。時には心の底から驚いて、一種の恐怖心へと繋がったらしく、思わず涙が零れたこともあった。その時は、清澄さんや華村さんが猫柳さんを注意していた。
「名前クンを驚かせるのは楽しいでにゃんす」
「わたしも、猫柳さんと一緒にいるのが楽しいです!でも、怖すぎる悪戯はやめてくださいね」
「にゃははは」
猫柳さんは悪戯を誰彼構わず仕掛けるわけではない。そのことを知っているからこそ、余計に嬉しさがあるのはなんでだろう。驚かされることは別に嫌なことではないし、笑うことに繋がって楽しい。それは自分でも理解ができる。でも、なんで嬉しいのかな。
鳥の玩具を回収した猫柳さんはその玩具と睨めっこしながら、くろークンにも突撃させてみるでにゃんす、と呟く。腕時計を見れば、もうすぐ集合の時刻になっていた。清澄さんや華村さんもやって来るだろう。机の上に置いた鳥を念入りに調整し始めた彼を見ながら、あの悪戯を仕掛けるのってわたしだけじゃないんだな、とふと考える。わたしよりも彩の皆さんの方が仲良しであることを知っているし、何よりも共有している時間は圧倒的に長い。うーん、猫柳さんの仕掛ける他の人への悪戯を見るのは楽しいことのはずなのになあ。
「名前クンも準備するでにゃんすよー」
「あっ、はい!お付き合いします」
着替えはあとでもいいか。猫柳さんの隣に移動したわたしは難しいことを考えるのはやめた。今、楽しいからそれでいい。彩の皆さんの活躍を願って、彼らを支えられることがわたしにとって重要なこと。クスクス笑いながら、わたしは猫柳さんと一緒に清澄さんへの悪戯の作戦を考えるのだった。
Title:ジャベリン
Image song:ら♪ら♪ら♪わんだぁらんど/765PRO ALLSTARS featuring ぷちどる