神様があなたに握ってもらえるようにと、わたしの手を小さく作ってくれたんです


*女の子≠プロデューサー



横になったベッドから、白いカーテンが両端に纏められた窓の向こうを見る。昼間は汗が吹き出すくらいに快晴で、夜空もよく晴れており、星が煌めいているのがよく分かる。仕事が終わって、みのりさんの家に直行したのだけれど、仕事の時間が長引いているのか、予定の時刻を過ぎているのに彼はまだ帰ってきていなかった。随分前に貰った合鍵を使って中に入ったわたしは、先にお風呂を済ませて、みのりさんの帰宅を待つ。暇潰しにテレビをつけたら、待っている人物が映っていたのですぐに消した。毛布が綺麗に畳まれてある彼のベッドに潜り込むと、その毛布を縦に広げて横に並べると全身で抱きつく。まるで抱き枕のように。みのりさんの匂いがするなあ、なんて思った時には瞼が下りてきていた。
次に目を開けた時には、毛布がきちんとわたしの身体に掛けられていて、扇風機ではなくエアコンがついていた。部屋の外から、シャワーの音が聞こえる。いつの間にか寝てしまっていたけれど、その間にみのりさんが帰ってきたらしい。テーブルの近くに、彼の鞄が置かれている。時間はどのくらい過ぎたのだろうか。



「……あ、ごめん。名前、起こしちゃったかな?」
「ううん。おかえり」
「ただいま」



薄暗い中、暑いと言いながら、タオルで髪の毛の水気を飛ばすみのりさんが電気を点けた。そういえば、電気も点けっぱなしだったような気がする。日頃節約を掲げているのに、それに反することを堂々としてしまった。みのりさんは、ベッドに腰掛けると片側に髪の毛を全て追いやって、タオルドライを再開する。彼の帰りが待ち遠しくて堪らなかったわたしは、身体を起こすとみのりさんの背中にぴったりとくっつく。お湯を浴びていた彼の身体はもちろん火照っていて、部屋の温度とは比べ物にならない。エアコンに冷やされたわたしの身体は冷たくなっていたようで、みのりさんが小さく悲鳴のような声を上げる。びっくりした、なんて聞けば、意地悪だなあと返ってくる。すっと立ち上がったみのりさんは、わたしをベッドに残して洗面所へ、そそくさと戻って行ってしまった。
ドライヤーの音を聞きながら、お預けを食らったようなわたしは毛布に顔を埋め込む。さっきのみのりさんは石鹸の香りでいっぱいで、本来の彼の匂いは掻き消されてしまっていた。傍にいるのに、傍にいないような気持ちになる。毛布に抱きついていると、また眠気が襲ってくる。どうやら、本物の匂いはわたしを安心させてしまうらしい。毛布を下敷きにしたわたしはうつ伏せのまま、目を閉じた。



「名前」



突然捲られたパジャマと名前を呼ばれたことに驚いたわたしだったが、背中を手で押さえられていて身動きが取れない。ドライヤーの音は止み、エアコンの稼働音だけがこの部屋に響いている。下着のホック辺りを蠢く指が怪しげで、行ったり来たりを繰り返す。ホックと肌の間に滑り込んだ指がなぞる背中に、ゾクゾクとした感覚が襲ってくる。すっと抜かれたかと思えば、パジャマのズボンを少し下げられて、腰辺りをザラザラとした生温かい物が這う。下着は両方とも丸見えの状態だ。なんとかしたくても、みのりさんの力には敵わない。キスよりも随分荒っぽい音を立てたみのりさんは、花、と一言だけ呟く。その言葉が、花屋さんに売られている物ではなく、別の物を連想させていることに気づいたわたしの頬はさっきのみのりさんに負けないくらい熱くなる。背中にぽたり、と落ちる冷たいものにまたもや声が漏れる。激しい温度差に、我慢が負けてしまう。
ようやく身体の自由を取り戻したわたしが、ゆっくりと起き上がると髪の毛が半乾きのみのりさんが艶めかしく笑っている。細められた瞳は、逃がさないとばかりに言いたげだ。さっきの水は、きっと彼の髪から落ちたものだろう。何も言わないみのりさんは、ぐっと距離を縮めてきたかと思えば、わたしをシーツの上へと戻す。倒れていく身体は言う事を聞かず、何かを言おうとした口はみのりさんに塞がれてしまう。中途半端に脱がされ、少し寒いはずなのに身体は燃えるように熱い。全部、彼のせいだ。



「名前が寂しそうにするから、少し早めにドライヤーやめたよ」



絡め取られた左手に顔を寄せたみのりさんは、夜光に照らされた濡れたくちびるから真っ赤な舌をわざと見せつけるように、ちらつかせる。わたしの視線をクギ付けにしたことに満足したあと、わたしの薬指に軽く噛み付いた。ぬるりとした感触が、爪の先から根元まで伝う。軽く噛まれたような跡は、まるで何か別の物のように思えた。噛み跡ではなく、そう、男女が結ばれた後に身に付けるような物に。彼の名前を発することさえ許してくれないみのりさんは、またわたしのくちびるを塞いだ。



Title:誰そ彼
Image song:咲いてJewel/CAERULA
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